大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

保健室とタネ

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決闘は俺の勝利。一応というか、表向きには俺とアンジェの間には特に取り決めは無かったが、非公式で軽く口封じ…というか《剣姫》の事を口外しないようには言っておいた。効力なんか欠片もないような口約束程度だが、言わないでおくよりかは幾分マシだろう。
問題はそっちじゃなかった。
俺がアンジェに撃ち込んだ戦技アーツはフィールドを易々と突破。その下の軽鎧を紙のように引き裂き、腹のド真ん中を真一文字に切り裂き、笑えない程の血飛沫が噴水の如く撒き散らされた。
結果として決闘は降参でも戦闘不能でもなく、中止に限りなく近い形で幕を閉じた。
で、後日──というか五日後。
普通に重傷だったアンジェは保健室送りとなり、そこで先生の手厚い治療を受けることとなった。多少滞在が延期することとなったが…まぁ仕方ない。
「ようアンジェ、体調はどうだ?」
「やぁレィア。随分と良くなったよ」
怪我をさせた本人として、俺は保健室の先生にこってりと絞られた。
その罰として、先生から「毎日一度はアンジェの所へ来ること」が厳命され、この五日間毎日ここへ来ている。
本人は気にしていないし、俺も正直面倒臭かったのだが、先生がかなりマジの目で俺に説教していたので、流石にそんなことは言えなかった。
「もう二、三日で快復よ。馬車も手配してあるわ」
今は女の先生が後ろからスっと現れ、カルテらしき書類をぺらぺらとめくる。
「ありがとうございます、先生が居なかったら私…」
「死にはしなかったでしょうけど、それなりの惨事にはなってたでしょうね。全く、ちゃんと注意したのに…」
「悪かったな。思った以上によく斬れたんだよ」
《音狩》と《終々》は俺がコントロールしきるのは難しい。いや、ある意味最も楽なんだが…
「まるで生まれて初めて戦技アーツを発動した子供のような言い訳じゃない。二つ名持ちらしくないわね。まさか未完成なの?」
「と言うか、そんな戦技アーツを私に向かって撃たないで欲しかったかな…」
「うるせー。あれはあれで完成してる戦技アーツなんだよ。アンジェにもそう言ったろうが」
舌打ちをし、顔は出したからと部屋を出ようとするが、アンジェに引き止められる。
「まぁまぁ、こうした詫びだとでも思って、あの戦技アーツがどんな戦技アーツだったか教えてくれないかな?」
「どうしてやられたか分かってなかったの?」
「つっても先生も分かんねぇだろ。その場に居なかったんだから」
「あら、分かるわよ。傷口を見れば」
マジか。流石というかなんと言うか…この人も凄いな。
「大方、鋭い刃物で何十回も切りつけたんでしょ?鎧の方もボロボロだったわ」
「あれ?けど音は一回だけだったけど」
「いんや、先生のであってる。大正解だ」
まぁ。
大正解と言っても半分ぐらいだが。
流石に切り札のタネ明かしを全部する訳には行かない。
「ま、お前にゃ一生無理だろうがな」
そう言って怒るアンジェを尻目に、俺は保健室を出た。
その三日後、アンジェは完治した状態で西学へと帰っていった。
………そう言えば。
ふと思い出したことがあったが──まぁ、関係はあるまい。
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