大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

敵と理想

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本ッ当に。
この学校は。
今回、学校が出してきた魔獣はミラーゴースト。見た目は白いのっぺりとした顔を持った芋虫。サイズは一メートル半ぐらい。
あぁ、幽霊ゴーストとか名前はついてるけど、実際のゴーストとは関係ない。実体があるから剣も通るし普通に殴ることも出来る。見た目はもろに芋虫だしな。
ゴーストと言われるゆえんは別にある。
『後ろ。二機』
「クソが」
両手で握った銀剣を大振りで後ろに振る。
雑な剣閃だが、手応えはしっかり二つ分あった。
「なんつー魔獣を引っ張り出してきやがったんだ」
思わずコメカミがひくつく。やっぱり休めばよかった。
ミラーゴースト、その特性は、対峙した相手の『最も勝てそうもない』と思う相手に変身する。
『剣先ブレてんぞ。集中切らすな』
「わかってるよ!!」
分かっているが──
「相手悪過ぎんだろ……!!」
砕けて散ったの破片が空気に溶けるのを視界の端に確認しながらそう愚痴を漏らす。
『まぁ、俺もいい気はしないな』
──ミラーゴーストが化けた相手がナナキだった。
ミラーゴーストの特性で化けた相手は、その人の記憶に依って化けられる。場合によっては実際より強く作られる場合もある。
観客ギャラリーが増えてきたな。他の生徒は終わったか』
ため息にも似た呼気が抜ける。ちらりと見たフィールド外は、複数の生徒が興味深そうにこちらを見ている。
『気を抜くなっての。俺が来るぞ』
「!くっ!!」
ガガァン!一際大きな衝撃が俺の身体を駆け抜ける。
「がッ…!?」
敵の持つ剣は金剣。その能力ももちろん完璧にコピーしている。
ちらりと、感情の無い敵の目が俺の脇腹を見る。
来る!!
敢えて見せつけるようにして振るわれる大振りの蹴り。
回避は不可、早すぎる──なら!
素早く銀剣を間に滑り込ませ、防御態勢を取る。
しかし──衝撃に備えた俺に伝わって来たのは、トッ、と言う軽い衝撃。
代わりにその壁を飛び越えて。
鋭い踵が上から降ってきた。
「──!!」
『緊急防御・急速展開します』
零コンマ一秒、それにも満たない僅かな時間。
それだけあれば、マキナは鎧を張れる。
それだけあれば、ナナキは肩を砕ける。
華奢な身体から放たれる戦技アーツを凌ぐ威力の蹴りが俺の腕に噛み付いた。
「──!?」
それはフィールドすら突き破り、俺の腕を容易にへし折る。もしも咄嗟に位置をずらしていなかったら。俺の肩は砕けていただろう。
『申し訳ありません・マスター』
「謝る暇があるなら次がないようにしろ」
《千変》を纏ったままだと視界が狭まる。感覚が僅かに鈍る。
それすら惜しい。
そして何より──森にいた時はこんな上等な鎧じゃなかったしな。
『こだわり過ぎるのもどうかと思うぜ』
夢に挑めるのなんて今日ぐらいだ。なら、とことんやろうぜ。
「シィルさん、中止しますか?」
先生がそう聞いてくる。馬鹿言え。
猛然と突っ込んでくる幻影の剣に銀の剣を真っ向からぶつけ合う。
限りなく近い能力を持ち、僅かに違う力を持った剣がその能力を相殺し合い、鍔迫り合いを演じる。
「先生、悪いがフィールドを切ってくれ。そんで逃げろ」
「そんなことをすれば、万が一あなたの身に危険があった時──」
「うるせぇ早く!!」
「!?」
砕けた腕の上から銀腕を形成し痛覚を遮断。強く握った拳をナナキに打ち込むが、それを受け止められて空中へ放り投げられる。真下ではナナキが俺を迎え撃つために剣を構える。
上等、俺も見せてやる。
「《潰断》ッ…!!」
爆音と共に戦技アーツ戦技アーツがぶつかり合い、完全に拮抗した結果、両者の戦技アーツが消滅する。
「じゃねぇと終わらねぇだろうが!!」
フィールドの中では攻撃が衝撃に緩和される。俺の攻撃も敵の攻撃も決定打にならない。
「っわかりました!!」
次の瞬間、フィールドが消えた。
そのうち生徒も減るだろう。
「俺な、今少しばかりキレてんだ」
相手が言葉を理解せずとも、俺は口を開く。
「俺の理想を、手前ェ如きが猿真似するんじゃねぇよ」
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