大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

扉と時間

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『──持久力はそれなりにあるのな』
「いや、持久力ってーかは身体の使いようだと思う。無駄に力んだりしてる筋肉を無くしてるからさ。むしろ隙を見て休ませてるぐらいだよ」
『なるほど、それもまたお前のスキルの恩恵だな』
「ま、純粋な持久力は低いからな。俺」
ぐだぐだとシャルと喋りつつ、戦技アーツや身のこなしを少しずつ矯正したり、無駄を省いていると、シャルが『来たぞ』と俺に一言かける。
「…少し早くないか?」
『だな。多分、今は十一時頃じゃないか?』
まぁ、遅く来られるよりかは万倍マシだが。
『ん?』
どうした?
『扉の前で気配が消えた』
は?お前の気配察知から消えるほど隠密技術が高いのか?
『ちょっと待ってくれ…大丈夫、必死こいて探したら見つかった。つってもかなり反応が希薄だが』
…本格的に《臨界点》の正体が分からなくなってきたな。魔法使いマジックキャスターだよな?あいつ。
『あぁ。今のところ、暫定的に、という言葉が必須になるがな』
何モンなんだか…呼ぶか。
扉の前だな?
『あぁ』
おっけー。
「よう《臨界点》!!随分と早い到着だな!!」
金剣と銀剣を仕舞い、扉の方へ向けて大声と視線を飛ばす。
一秒、二秒、三秒………十秒。
おいシャル、本当にいるんだろうな?
『もちろん。というか、これぐらいの気配察知が出来なきゃ、簡単に魔族に寝首を掻かれるぞ』
なら信用しよう。と言うか、足音だとか影とかで探すんじゃないなら、それはある種特別な力が働いてるんじゃないだろうか。
『ンなこと気にすんな。そのうち分かる』
さらに十秒ほど経過して、ようやく見慣れた小さなフード姿が訓練所の中に入ってくる。
「よう。入るのに随分時間がかかったな?何かあったのか?」
「お主、何故我輩が来たと分かった?」
「別に大した事じゃない。ちょいとばかり気配を探ればすぐ分かった」
シャルがな。
「ふむ…まぁ良い。それで、話があるとはなんの事じゃ?フェンリルのマスター様」
「その話は降りたはずだが?それも、勝手に派閥の頭に据えようとすんじゃねぇ」
勝手にやってろ、と吐き捨てるように言うと、《臨界点》は「そう言うでない」と笑って続ける。
「上から物が言われるのが嫌なら、お主がフェンリルの頭になっても構わんのだぞ?我輩はその力を使ってほんの少しやることがあるだけじゃ。それさえ出来れば、後はどうでも良いしの」
「それ、逆に言ったら、そのたった一回のためだけにフェンリルを作る程の大事ってことだろ?やだやだ。どうせロクなことが起きやしねぇ」
思いっきり顔を顰めてそう言い、本題に入る。
と言っても、大した話じゃないんだが──
「なぁ《臨界点》。お前、そもそもどうしてアンジェにわざと見つかったんだ?」
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