大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

産獣師と黒霧

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「けれどねぇ…まさか私が手塩にかけて産んだ黒竜ちゃんがたった四人に倒されちゃうだなんて。私感激しちゃった!やっぱり彼の話の通り、来てみて良かったわ!!」
長い銀髪を振り乱し、腰をくねらせて興奮したように女魔族はそう言う。
長く美しい銀髪、切れ長の目、柔らかく弾力のありそうな唇、すらっと通った綺麗な鼻筋、大きく出た胸、きゅっとくびれたウエスト、それより下はまだ黒竜に埋まっていて見えないが、恐らく丸く美しい尻と適度に引き締まった足が隠れているであろうことは容易に想像がついた。
どのパーツを拾っても完璧であり、そのバランスもこれ以上ないほど調和が取れている。恐らく百人が見れば百人が美人と口を揃えて断言するだろう。
「でも残念だわぁ…見たところ二人しか戦えそうにないじゃないの…おまけに一人は足の骨を折ってるじゃない」
不満げに、何気なく言った女魔族の一言に、俺は内心焦った。
──見破られている。体勢で不自然な所は無いはずなのに。
「彼の言う通り面白い物は見れたけど…そう言えば、彼が言ってたのは東だったかしら?西だったかしら?もしも違っていたならそっちの方だったかしら?あぁ、私ったらうっかり屋さんだから間違えちゃったかしら?」
何のことを言っている?彼とは誰だ?西と間違えた?西なら──西学?
何故西学が関係している?
「お前が言う彼、誰だか当ててやろうか?」
ヤツキが涼しい顔をしてそんなことを言う。
「──あら?あなたは誰?私はここ五十年ぐらいずっと魔獣この子達の研究をしてたから、ヒト種の知り合いなんていないと思うんだけど?あなたまさか、魔族私達との混血だったりするかしら?」
「いや。私はつい最近生まれたばかりでね。ひよっ子もいい所だよ。でも魔族のことはよく知ってる。特に《産獣師》と《腐屍者》、お前らのことはよくよくな。そしてその関係もだ」
「あら?なら知るようなヒトはいないはずだけれど」
「いるに決まっているだろう?
「──あなたまさか」
「ご名答。《勇者》だよ」
瞬間、黒い霧が生まれる。
次いでその中から見えるのは無数の光──魔獣の眼光だ。
「かかってこい。三大魔候最弱の尻軽女ビッチ。私は強いぞ?」
「私を侮辱したな!?その罪は重いわよ!!」
産獣師が指を軽く振ると、それに応じて霧の中から大量の魔獣がヤツキに襲いかかる。
「──なぁ、ヤツキ、お前何やって…」
「どうしたどうした!?これぐらいじゃ私を殺せはしないぞ!?」
「生意気な!!」
鬼神の如く剣を振るヤツキと、底なしの霧から無尽蔵に魔獣を繰り出す産獣師。
「《勇者》は…俺だろう?」
なのに、なんでお前が──
『見たらわかるだろうが。ヤツキは戦えないお前の代わりに戦ってるんだよ』
「ふざけるな。俺はまだ戦え──」
『踵が壊れたって言ってたな?膝と股関節も壊れる寸前だぞ?突進で受けた傷もまだ完治していない。それと十日分の疲労もだ。お前の身体は俺が知りうる限り、過去最も疲労している』
「でも──だからって!!」
あいつを見捨てていい理由にはならないだろう──!!
「ヤツキ!今行──」
「来んじゃねぇポンコツ!!」
返ってきたのは強い拒絶。
「怪我人が来たって邪魔なだけだ!!すっこんでろ!!」
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