大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

朝と時間

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久しぶりに変な夢を見た。
けど、内容は覚えてない。辛うじて記憶に残っているのは謎のフラスコ、試験管、そして何度も書き直された形跡のある魔法陣。謎だ。
身体を伸ばしながら起きてみると、思ったよりもすぐ近くにベッドの縁があった。
そうだ俺、帰ってきてたんだっけか。
俺にあてがわれた部屋は二階の一室。空いている部屋だから好きに使っていいと言われて驚いた。
俺の部屋じゃん。
どうやらヤツキが残した家というのが俺とナナキが住んでいた家だったようだ。…あぁでも、少し考えるとそんなに不思議なことでもないのか。
この家の下…地下のさらにその下、そこには他のホムンクルスたちが眠っている。もしどこか一つ家を残すとしたら、この家を残す方が合理的だろう。
ともかく、俺の部屋は前に帰ってきた時とほとんど変わらない様子で、クローゼットの中の服や引き出しの中のゴチャゴチャした物も全部そのままだった。これは非常に運が良かった。
もしも俺の服が全部処分されてた、なんて話だったら目も当てられなかったしな。
さて。
昨日はあの後特にすることも無く部屋で寝たが、今日はどうしようか。
着替えた後に部屋を出、階段を降りると既に武装したヤツキがいた。
装備はナナキとほとんど同じものを使い回しているようだが、唯一武器だけが彼女とは違っていた。
「おはよう。よく眠れたか?悪いが朝食は自力で何とかしてくれ。じゃあな」
「あっ、ちょっと待ってくれ」
「……何だ?」
しまった。咄嗟に引き止めてしまったが、特に用はない。
それでも何か言わないと、と思って目をやった先には、昨日俺の顔の真横にも突き立った黒の長剣。
「…その剣、どこで手に入れた?」
ヤツキが持っていた剣は刃渡り一メートル近い黒の長剣。細く長いそれは突くにも斬るにも適していそうだ。
「……それ、今じゃなきゃダメか?今から見回りなんだが」
「人形があるから見回りはあまりしなくて──」
いい訳が無い、か。
自分で言っている途中で気づいた。
「分かったか?私のスキルは前任者のそれとは違う。一応、まだ生き残っている人形は使わせてもらっているが、それだっていつ無くなってもおかしくない。数も最初と比べてずっと減ったしな」
「そう、か…悪かった。また昼にでも教えてくれ」
「あぁ、気が向いたらな」
バタン、と閉められた戸の音が、やけに大きく響いた気がした。
「……さて、どうするか」
とりあえず…飯を食うか。
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