大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

確認と流れ

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今回の件で、いくつか不自然な事がある。
まずは…《剣姫》の思い込みからだろうか。
俺が聖学祭で狼の面を被っていたのは事実だが、俺は《フェンリル》という言葉を一つも使ったことは無かった。誰かが言った訳だろうが、まぁこの際それは一旦脇に置いといて、少し考えればそんな派閥が存在しないであろう事は容易に想像がついただろう。
それなのに彼女は自ら第三派閥所属すると発言し、自ら俺に接触してきた。
仮に《フェンリル》が存在するとして、俺に接触するのは…まぁ、有り得なくはないが、もう一度言おう。
第三派閥が出来るのは普通、有り得ない。
理由は単純だ、今回《猫》が慌ただしく動いていた理由もそれだからだ。
──ただただ純粋に、パワーバランスが圧倒的なまでに不利だからだ。
普通に考えて、学校長のバックアップがある《犬》とそれにむしろ敵対する《猫》、そのパワーバランスはただでさえ《犬》の方に傾いている。
それに対して、今までの《猫》は大貴族の二つ名持ちである《逆鱗》をリーダーとする事でパワーバランスはほぼ拮抗していた。問題はその《逆鱗》が《犬》の方へ回り、大貴族という武器を失っていた事だが…今は《貴刃》ことユーリアが《猫》の方へ入ったため、再び拮抗状態に戻ってきた。
つまり、
そう考えると、一つ可能性が生まれてくる。
《剣姫》は俺が派閥に所属していないことを知っていて、わざとそう声をかけてきたのではないか?
そして遅れて撒かれる《フェンリル》派閥のビラ。
そうなるとどうなる?
俺は《剣姫》が犯人だと判断し、対処しようとする。
そして事実、それはその通りになった。
だが、もしも──この案が《剣姫》の発案でなければ。
俺が《剣姫》と決闘をして勝利した所で、この騒動は収まらない。事実、収まらなかった。
結果、俺はそいつにまんまと時間を与えてしまい、多くの生徒に《フェンリル》は浸透した。
そして浸透しきった頃に…《剣姫》からのメッセージと、拍子抜けするほど簡単に捕まった犯人。
明らかに…引っかかる。
黒幕は恐らく第三派閥を必要としており、なおかつ《剣姫》に命令できる立場…つまり二つ名持ち。そして派閥の力を少しでも強めたかった《不動荒野》率いる《猫》が派閥の力を分散させるような事をするわけが無いため、《犬》…《シェパード》に所属している。そして外部の二つ名である《剣姫》の力を頼ったことから、派閥の中でも孤立している存在。
なんだ、整理してみると簡単に答えは出てきたじゃねぇか。
「よぉ。久しぶり」
相手はどうやらこのクソ寒い中、律儀に俺の指定した場所──真夜中の寮の屋上という特別寒い所へ来てくれたらしい。
俺は白く凍った息をその名前と一緒に吐き出した。
「《臨界点》」
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