大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

泣き顔と確認

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「あー…アーネ?その…なんだ、悪かったな」
とりあえずそう言っておく。
何故なら、彼女の目には涙が溢れんばかりに溜まっていたから。
「えーっと、次から怪我しないようにするから。な?お前にそんな負担掛けてるとか思って──無かった訳じゃないが、まぁ……」
なんて言えばいいんだ。
泣いているアーネだとか慌ててるアーネは何度か見たことはあるが、泣きそうなアーネとか始めて見たから対処が分からんのだが。
これ泣かせればいいのか?宥めればいいのか?
そんな風に迷っていたら泣かれた。
「…って、なんでお前が泣くんだよ」
少し待って、落ち着いた頃に声をかけると、少し赤くなった目でこちらを見ながらアーネが答える。
「また貴方だけが傷ついて、私は守られるだけで…」
………。
「そんな事、お前が気にするなよ」
口から出たのはそんな言葉。
「俺が傷つくのはある意味当たり前だ。一番前で命張ってんだからな。それよりお前、怪我無いか?」
聞きながらアーネの身体を見ると、どこも外傷は無さそうだ。ギガースの攻撃を受けていたらひと目でわかるだろうしな。アーネも頷いた。
「なら良かった。俺がいて後衛後ろのお前が怪我してるより何倍もいい。前衛が後衛を守れないのは恥だし、何より……女の子の身体に傷が付くのは…流石に、な」
最後の方は何となく恥ずかしくなって、小さい声になってしまう。
するとアーネの顔が赤くなって、ベッドの縁に顔を押し付けて黙ってしまった。
…なんか不味いこと言ったっけ。
と、そんな事考えてる場合じゃない。
「アーネ、ちょっといいか?」
「な、なんですの?」
顔を伏せたままアーネが返事をする。
「他のみんなはどうなった?ギガースの魔砲で壊れた訓練所は?と言うより、俺はどのぐらい寝ていた?」
「………その事ですの?」
なんだ、アーネの機嫌が急に悪くなった気がする。
ため息を一つ吐かれ、顔を上げたアーネが一つずつ答えていく。
「死者は奇跡的に零ですけど、重傷者複数、何人かは戦闘に復帰は難しいそうですわ。訓練所は完全に崩壊して、しばらく午後の訓練は無くなりそうですわ。そして貴方が寝ていた時間は…大体半日ですわね。ほら」
そう言われて外を見ると、既に真っ暗。というより深夜か。
「そうか、ありがとう。シエルやラウクムとかは?」
「シエルは……隣の生徒を庇って重傷ですわ。ラウクムさんは大した怪我ではありませんけれど、リーザが骨折ですわね。クアイは特に怪我はありませんの」
「………シエルが…そうか」
「一応、致命傷では無かったらしいですけど…しばらくベッド生活らしいですわ」
「……そうか」
力の足りない自分を不甲斐なく思うと同時に、腹の底から湧き上がって来たのは怒り、だろうか。
胸に下がるいつもの金剣銀剣を何となく弄りながら、俺はそう思った。
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