大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

仮面と勘違い

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「五分だ」
「んぅ?」
「五分待ってろ。話はそれからだ」
「えっ、うそっ、ちょっと待っ」
俺はそれだけ言うと、部屋の前で突っ立っている《剣姫》を無視し、部屋の戸を閉める。
『ちょ、おま、良いのかよ』
いいか悪いかなら悪いだろうが、今は先にアーネの飯を終わらせてからだ。もう少しで終わるしな。
という訳で少し急ぎ目にアーネの飯を終わらせ、食器を軽く水洗いした後、マキナに一言言ってから戸を開ける。
「悪ぃ、遅れたな。それで何用だ?」
「全く、遅いよぉ…廊下で一人立って待たされる身にもなってよぉ…」
「そんなに不服だったなら座ってりゃ良かったんじゃね?」
「そういう問題じゃないよぉ…」
だろうな。
「で、来てもらって悪いが、俺の部屋は今同室の奴が風邪ひいてて休んでんだ。一応熱は引いたが部屋にゃ入れたくないんで場所を変えていいか?」
「うん、いいよぉ?」
さて、そうなったらどこがいいだろうかと考えてみたが、とりあえず食器を返すついでに食堂にする事にした。
「オバチャーン、さんきゅーな」
そう言って食器をカウンターの所に置いておく。今は姿が見えないが、多分奥の方にいるだけだろう。
「で?」
どっか、と一番日当たりのいい席に乱雑に座る。
「で?、って何ぃ?」
「お前が部屋にわざわざ来た理由だよ。用もなきゃ来ねぇだろ?」
こちらが聞きたいこともあるが、来たのは向こうから。向こうの話を先に聞いてやる方がいいだろ。
それに…タイミングからして向こうの話も俺のしたい話と同じだろうしな。
「あぁそれぇ?うんうん、私もぉ…入れて欲しくってねぇ…」
「何にだ?」
「《フェンリル》にぃ」
あー…。
『やっぱりか』
やっぱりだな。
「んー…あー…、悪いが《剣姫》、俺はハナからどこの派閥にも所属していないぞ?」
「…?」
「いや、だから俺はフリーの中立を勝手にやってるだけで、派閥とか作ってねぇぞ?どっちの派閥に入るのも保留にした状態を半年ちょっと続けてるだけだ」
「え?でもキミぃ…仮面、付けてたよねぇ?」
「…あ?いつの話だ?」
「聖学祭」
…あぁ、学校が用意した仮面なら確かにつけてたな。あれもモチーフは狼だったっけ。
「まぁ、確かにつけてたな」
「あれはぁ、各派閥の象徴だから、アレをつけてたって事は派閥に入ってる、って事だよねぇ?」
「…は?」
『あー、そういう認識してる奴もいるのか』
つまり?
『派閥の奴は仮面をつける。だから仮面をつけたお前は何らかの派閥に入ってるって認識を一部の奴らがした後、勝手に名前をつけて呼び始めたんだろ』
「だからぁ…入れてよぉ…」
「ンな事言われても俺派閥入りたくねぇし面倒事に頭突っ込みたくねぇし。嫌に決まってんだろうが」
話はこれだけのようだったので、適当に切り上げて部屋に戻る。
さて、これが面倒事にならなきゃいいんだが。
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