大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,935 / 2,022
本編

──と或る少女と想い

しおりを挟む
ん?ウチが生まれた家?最悪やったよ。そう言えば、あんまウチの話とかした事なかったっけ。
……いやいや、表に出るわけないやろう?色んな意味で、腐ってもシラヌイ。その辺は昔の繋がりとかあるし、隠蔽もなんとでもなるわ。ウチらが知らんだけで、お兄さんお姉さんも多分ぎょうさんおるで。
アレがウチ産んだん二十七ぐらいやけど、結婚したんは十六って聞いとる。むしろよぉあの家で十年以上も無能晒して生きとったモンやわ。もしかしたら、案外母親もこっそり何代目かになってたんかもやけど。
……話少しズレたなぁ。ともかく、あそこはそう言う所や。過去の栄光に縋る絞りカス共の煮こごりみたいな掃き溜めや。
だって誰でも知っとるやろ?
。家ん中におる限りはそんな風には見えんし、思えんようにされとったけどな。その上で、あこの馬鹿共はそれでもまだ何とかなるって言って、地べた這いずりながらおったわ。
……あぁそうや。その結果がウチや。シラヌイの証、最強の雷。自分でそう言うんはアレやけどな。
……シラヌイの修行?ウチは無いで。シオンちゃんの方はあったけど。
ウチにあったんは……なんて言ったらええんやろか。一言で言えば開発やな。スキルの拡張と《雷法》の……つまるところ、シラヌイ秘伝の雷魔法の習得や。
言っておくと、《雷法》の習得は修行とはかけ離れとる。
まずは魔力の許容量の拡張、どうやるか知っとるか?
……そう、普通は身体の成長と共に少しずつ増える。あとはよく食べてよく寝て……みたいな感じやな。幼い頃に魔法使ったらその分伸びる、みたいな話もあったりするけど、それはヒトによるって感じや。
ウチがやったんは、ひたすら許容量を超える魔力を身体に流し込み続けるって方法や。
……そうや。これで増える量は微量や。折れた骨が治ったから太く強くなるって言っても、正直誤差程度やろ?それと同じや。
でもこれな、早いんや。
限界を超えて魔力を流し込まれて、血反吐吐く。けどそれもすぐに治癒魔法で治して、また流し込む。
ワンセットやるのに一分もかからん。これを毎日二十時間。食事は見るだけで気持ち悪くなるような量を二十分で詰め込んで、一日三時間、強力な睡眠魔法をかけて無理矢理質のいい睡眠を取らされる。
そんな生活をあの家おった時ほぼずっとや。お陰で普通なら有り得ん魔力をため込めるようになったわ。
ただ、それだけやったら《雷法》は扱えん。
基本的に《雷法》の燃費は雷魔法の中では比較的軽い。けど、後ろに下がって一度放てば終わりの雷魔法とは違って、《雷法》は前に出て常時発動し続けんとダメや。
足らんのよ。いくら燃費良くなったとしても、打ち切りで終わる雷魔法とは違って、常に展開し続ける《雷法》なら、圧倒的に《雷法》が魔力を食う。障壁が難易度高いのと似た理由やんな。あっちはそれだけやないけど。
加えて《雷法》はやたらと高度な術式使っとる。無詠唱出来んわけじゃないけど、思考が魔法に割かれるんは近接やと致命的や。《雷弓》の方なら別やけど。
やし、シラヌイの奴らがどうしたか分かるか?
……ん、惜しいな。けど発想自体は合ってる。もっとあるやろ?術式を刻印するなら、武器の刃とか柄とかより、もっと身近で面積あって、しかも相手にも見えん様な所。
分からんか。答えは骨や。
文字通りウチに刻まれた《雷法》は十六。どんな方法か、詳しくは忘れたけど、物事あった頃にはもう全部彫り込まれてた。
で、あとは使いたい時にそこに魔力を流せば《雷法》が勝手に発動する。
……シオンちゃん?あの子はしてない。
この方法は失敗やったってシラヌイの奴らが後から判断したんや。理論上は確かに最強かも知らんけど、身体への負担が大きすぎる。術式を馴染ませるために物心つく前の、ガキの頃から刻まんなんのやけど、知らんうちにうっかりそこに魔力流したら大事故やしな。
実際ウチも昔は寝たきりやったし、よく自分の《雷法》で身体焼いて死にかけたりもした。いつ捨てられてもおかしくなかったけど、どうせ死ぬなら次の為に研究を、って感じやったんやろな。
けどま、最終的に生き残った。そしたら出来たんは、理論と理想を超えた最強のウチや。
多分、ウチがもうちょっと持ち直すのが遅かったら、シオンちゃんが似たような目にあっとったんやろな。見てた感じ、身体をしっかり作ってから《雷法》を刻むつもりやったみたいやし。
……ん?あぁ、多分そうや。刻むやり方はウチが最初やったみたいや。最強のシラヌイを作るために、それこそあの没落事件があった時から色んな方法で試してたんやろな。
そんで取引した。今もまだ当主やってるあの腐れ親と。
もしも鍛えてたシオンちゃんと、ほぼなんもやってないウチが手合わせして、ウチが勝ったらウチが次の当主代わりにやる。取引せんのやったら、今この場で死んでやる、ってな。
そりゃあもう慌てたのなんの。あの顔だけは未だに忘れられんわ。
だって、奇跡的にようやっと出来た完成系が今死のうとしてるんやで?今から成功するかどうかも分からないシオンちゃんより、もう既に出来てるウチを失う方が損失は大きい。
あとは……んー、まぁ、当時はちょっと色んな要素噛み合っててな。結果的にどうにか取引が成立した。シオンちゃんの魔力が少なくて、《雷法》を会得出来そうにないってのも一因やったやろな。その辺はスキルでカバーしてたけど。
そんでウチが勝って、あのクソみたいな家の関心を、シオンちゃんからウチに向けた。
正直武器なんか握るのなんて心底嫌やったけど、血筋なんかそれなりの才能はあった。それと開発された馬鹿みたいな魔力量と手足よりも自由に使える《雷法》。気づいたら全部の型の奥義を使えるようになって、《至雷》とかいう大層な称号まで貰っとったわ。
その少し前ぐらいやったかな、家の勢力が二つに割れ始めたんは。
簡単に言うと、当主を今のままにしておくか、すぐウチを当主にするかって話。
まぁどっちがどうなっても良かったんやけど、クソ親父は変に危機感持ったみたいでなぁ、すぐにウチの主を見つけて飛ばされたわ。
で、シラヌイのルール聞いたことあるやろ?主に一生尽くす、みたいなん。
あのルール、当主だけは例外なんやけど、言い方変えると、主立てた時点で当主になれんのよ。
そりゃもうウチもキレたわ。約束違うやんけって。しかも送られた先が獣臭い南の動物園。挙句雇い主の獣人種ビーストマンがちょうど盛りの時期やったみたいで、ウチも手篭めにしようとしてきたりな。
最低限、家出る時にシラヌイの研究資料をこっそり集めて焼いたから、シオンちゃんには何も出来んはずやし、時間稼いで貴族の権力と共に戻って家潰したろと思ってたけど、流石にブチ切れてその場で馬鹿猫斬り殺したわ。そんでそのままシラヌイの家襲ってやろうかと思ってんけど……まぁ、見込み甘かったわ。
貴族を殺せば王様に知らせが入るし、誰がやったかが分かれば、ウチを捕まえるのに最適なヒトを送り込まれるんは当たり前の話。
ウチの場合、英雄が出張ってきたわ。
ま、そん時に話が色々あって、その英雄にも気に入られたんやわ。最終的にウチをあのクソみたいな家から匿ってくれたり、いくつか約束を交わして、今ここに着いた訳やな。
……卒業したら?うーん、とりあえず行くところ決まってるんやわ。
うん、まだ英雄じゃないけど、似たような仕事。ウチと約束した英雄は、もし自分が死んだら代わりにウチが、って話で通してあるらしいから、じきになるかもしれんなぁ。
……そうや?ウチはこの子めっちゃ好きやねん。大事やねん。
正直な話、シオンちゃんがおらんかったらウチ、生きるの諦めてたかもしれんわ。
シオンちゃんが生まれたって話聞いた時な、死ぬ前に一回だけでも顔見よ思って生きてたんや。
んで、この子が二つの時や。その日は体調良かったし、一度聞いただけの妹がどんなんか気になって、大人らの隙突いて部屋抜けて初めて妹の姿見に行ってん。そんなんしたら罰があるの分かってたけど、見たら死ぬつもりやったし良かってん。
けど、この子の顔見たらな、守らんなんなって思ってん。
ちょうどこんな感じで、何の不安も怯えも無い、気持ちよさそうな寝顔。ウチとは違ってまだ何も知らない健やかな顔。
この顔が真っ黒な苦痛に染まるんが、ウチは心底嫌やってん。そんでその日から、ウチは二つの目標を決めた。
一つはこの子を絶対に守ること。そんでもう一つが、このシラヌイの家を潰す事や。
さて、そろそろ迎えも来るやろ。シオンちゃんの寝顔も堪能したし、もう思い残すことも無いな。
……うん?はは、死ぬつもりは無いで。そう聞こえたら悪いな。それじゃあ……なんや?
二つ名か?シオンちゃんにあげるってのは学校長の婆さんに言った……シオンちゃんの二つ名もウチが考えるんか?面倒な決まりやんな。
……………………あー……うーん……決めた。ならあの子は《雷光》や。
あの子、どうもウチを超える壁みたいに思ってる節あるからな。ウチから寄越された名前とか嫌がるやろけど、これなら多少は気に入ってくれるやろ。
……さて、それじゃ最後に、起きたらこれも頼むな。
ええよ別に。コレないと不便やろし。だってウチらの奥義、普通使ったらその武器消えるんやもん。刀しかないこの子がそれやと大変やろ?
例外は奥義習得したって認められてから渡されるシラヌイのオリジン・ウェポンのみ。ウチの《四天》は特別槌人種ドワーフに鍛えられてるけど、そこだけは変わらん。
ま、それも今から《三天》になるけど。可愛い妹の為や。これぐらいなんてことは無いわ。
じゃあな、《勇者》くん。妹の事、頼んだわ。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

種族統合 ~宝玉編~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:481

まほカン

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:32

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:94

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:666

処理中です...