大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

騎士と逆鱗

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数日前と同じ位置、同じ格好で彼はいた。
屈強な身体、強大な背丈、そして口元から漏れる白く細い呼気。
既にルト先輩、って言うより《逆鱗》って感じだな。
「そーんなに怒っちゃってどうしたよ?ルト先輩。あんまりカッカしてるとストレスで禿げるぜ?」
「────。」
口をゆっくりと開け。
巫山戯ふざけるな」
短くそう吐いた。
「《貴刃》の二刀流、仕込んだのは貴様だな?」
「もちろん。この学校で俺以外にまともに双剣使うやつなんているか?あぁ、シエルとかそうだけど、あいつのは短刀術だから厳密にゃ違」
ガギィン!!、と。
とんでもない衝撃と共に《逆鱗》の振るった剣が俺の言葉を途切れさせる。
「あンだよ」
顔を狙った横薙ぎの一撃を髪と《千変》を纏った掌で受け止め、やや眉間にシワを寄せながらそう言う。ちなみに足元には杭のようにして髪が突き刺してあり、吹き飛ばなかったのはこれのお陰だ。
「《貴刃》は貴様のような邪道の剣を学ぶ必要は無かった…無かったのだ!!彼女の剣は強く、その口が紡ぐ魔法は繊細。その二つを併せた魔法剣技は正しく最強…貴様が剣のみに偏らせるような二刀流なぞ仕込むから《貴刃》は手こずったのだ!!」
「何言ってやがんだお前」
さらに眉間にシワを寄せ、興奮する《逆鱗》とは逆に冷静になった俺がそう呟く。
小さく呟いただけだったが、二人しかいない空間で口から漏れた言葉は氷の刃のようによく通った。
「何を学んで何をして、何をどうするのかを決めるのはアイツ自身だ。それを決めるのはどう考えたって俺じゃないし、ましてやお前なんかでもない…アイツは自分から俺に教えてくれって言ったんだぜ?お前が文句言えるモンじゃねぇよ」
「うるさい!!」
「うるせぇのはテメェだよクソトカゲモドキ。そもそもなんで俺に文句を言うんだ?お前が言うべきはユーリアにだろう?なのに俺に言うのはユーリアにはお前からは言えないからだ。ルト、お前がやっているのはな?『ユーリア・グランデンジークはく在らねばならない』と自分が勝手に決めた定めた枠の中にユーリアを押し込んで、有難い御神体みたいに崇めて奉って、それから外れた行動を取ったら本尊本人には言わずに周りを歪めて変えさせて、『それでこそ自分が憧れるユーリア』だ、なんて勝手にほざいてるんだよ。そんなお前の自己満足に俺やユーリアを付き合わせるんじゃねぇ。反吐が出るぞ」
「遺言はそれだけか!?《緋眼騎士》ィィィィ!!」
「こんなにキレたお前を見ると、初めてお前に出会った事を思い出すよ。全く…」
俺とやり合う程に怒り狂う場所…文字通り逆鱗に触れた訳か。
戦うつもりは無かったんだが…痛いところを突かれると吼えてキレて暴れ回る…か。小さいガキと変わりゃしねぇ。
「──いいぜ、説教…いいや、折檻の時間だ。なぁ
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