大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

呼び出しと逆鱗

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ぷっつ、とメッセージが途切れた。
相手はルト先輩。話した時間は大体五分程度。
「………。」
内容は簡単だ。単に呼び出されただけ。
場所は俺達が使う訓練所、そこに今ルト先輩はいるらしい。
俺はさっ、と出かけると書き残し、マキナを腰に装着して部屋を出る。
少し走れば寮から訓練所までは比較的すぐに着くため、駆け足で向かうと、頑丈な扉の内側、広い訓練所の中心にはルト先輩が仁王立ちをして俺を待っていた。
「思ったよりも早かったな」
「そりゃ待たせてるのがアンタだからな。下手に遅れて逆鱗に触れる方がなお怖い」
そう言いながら、俺も中心の方へと歩いていく。
「今日は一日中どこにいたんだ?俺は《剣姫》の方に知らねぇんだけど」
ピクリ、とルト先輩の眉が微かに動いた。気がした。
「私は……《貴刃》の所に」
やっぱりか。
ザッ、と音を立てて足を止める。彼我の距離は約三メートル。ここまで近づけば、この暗闇の中でも充分に表情も見える。
「そうか。で?俺を呼び出した理由は?」
「《緋眼騎士》……貴様《貴刃》に一体なんの入れ知恵をした?」
「入れ知恵だぁ?別にンな事してねぇぞ?」
「嘘をつけ」
歯を食いしばってルトが言う。
「今日一日、《貴刃》の動きを見ていてわかった。《貴刃》の動きの所々に違和感を感じた…そしてそのことごとくが《緋眼騎士》、貴様の動きと酷似していた」
「へぇ、よく見てんじゃん」
「やはりか…!!」
食いしばった歯と歯の隙間から、白く立ち上る煙が見える…何がかは知らないが、よほど腹に据えかねたようだ。
「貴様の剣のせいで《貴刃》の剣が鈍った。いつ仕込んだかは知らんが、貴様が《貴刃》に剣を教えなければ、容易く二つ名になっていただろうに…余計な真似をしたせいで、剣に隙が生まれた!!」
あぁん?そんなこと、ユーリア一言も言って………たな。二刀流の癖が抜けないだの何だの。
「ンなモン知るか。確かに俺はアイツに剣を教えたし、他もある程度教えはしたが…だからと言って俺の剣の癖がついたのはユーリアがしっかり区別出来て無かったからだ。俺に文句言いつけんのはお門違いってもんだ」
それに──。
「お前がどう思っていたかは知らんがな、ユーリアの剣じゃ二年までならともかく、三年には絶対敵わないぜ」
「巫山戯るな!!ユーリア姉さんが負ける訳が無いだろう!?」
「『あぁ、なんだ、そういう事か』」
俺とシャルの声が重なった。
こいつが見ているのはユーリアだけど、今のユーリアじゃないんだな。
「ま、どう思おうとお前の勝手だ。……勝手だが──それはお前が思った事だ。現実とは限らないんだぜ」
「────」
「話はそれだけか?じゃあな。明日も大変そうなんだ。部屋に帰らせてもらう」
そう言って俺は訓練所を出た。
ルト先輩は、俺が出る最後まで少しも動こうとすらしなかった。
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