大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

豹と機嫌

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「──わかったぁ?私からの情報はこのぐらいが限界よぉ」
「………。」
ここに来てから、そろそろ一時間が経過しようとしている。
その間、俺がしていたのは《豹》の一方的な説明…のような情報提示。
そしてそのどれもが初めて聞く話で、どれもが信じ難い話で、どれもが──どれもが、そんな嘘をついたところで《豹》にメリットが発生しないような嘘ばかりだった。
「一つ、聞かせてくれ」
「何かしらぁ?」
《豹》がそっ、と足を前に運ぶ。
一歩、二歩、音もなく三歩こちらに近づいた。
おそらく、あの得物の射程範囲内。
「お前、何でこんな情報を俺に洩らした?」
「危険だからよ」
一分の隙もなく返ってきた返事は、必死さなどはなく、むしろ真剣さが際立っていた。
「あなたが所有するそれはぁ、断言出来るほどに危険よぉ……──下手をすれば、あなただって享受しているこの五十年の安息が一瞬で消し飛び、前以上の地獄となるわ」
「幾つか訂正させてもらおうか。別に俺の所有物じゃないし、俺からしたら、五十年どころかつい最近だってそう安息がある訳でも無かったし、何より──」
一瞬だけ言葉を区切り、記憶の奥の奥、俺ではない彼女の記憶を掘り起こし、言葉にする。
「お前らヒトが味わったアレが地獄と呼ぶのなら、俺達が浸っていたあそこは地獄の底と呼ぶのも生温い様な本当の地獄だ」
背中の《勇者紋》がざわめく。
俺の殺気プレッシャーが漏れたのか、《豹》が少したじろぐ。
「っ…あなたはアレがどれほど危険なのか分かってないのよぉ…!!聖女様が創り上げ、魔族の侵入を悉く弾く結界が、内側から崩される可能性を内包する…そんな馬鹿げた威力の爆弾を抱え込んだ状態は、あってはならないのよぉ!!」
ひぃん、と空気を裂いて繰り出される槍。
それはピンポイントで俺の喉を狙い、確実に孔を空ける一撃。
しかし、俺が何か回避行動をとる前に──マキナが動く。
喉元まで一気に《千変》がせり上がり、その一撃を容易く弾く。
「お前の話だとたかだか八割程度だろ?何、可能性は二割も残っているじゃないか」
「ふざけないでくれないかしらぁ?それだけあれば、充分すぎるほど充分よぉ」
さっきの激昴が嘘のように、冷静な《豹》が戻る。
「八割方起きるから今すぐに──か。確率の低い可能性を切り捨てて、そんな安易な答えに乗るから、多分結界の中に引きこもるなんて答えしか出ないんだろうな」
断言しよう。
絶対にこいつとは分かり合えない。
「お前の話、覚えてはおこう。だが、それだけだ。もしもお前が手を出そうってんなら…」
軽く右手を握る。
それだけで、そこを中心に巨大な杭打機パイルバンカーが形成される。
「俺がお前を潰す。何があろうとな」
あぁ、一つ言い忘れた。
「俺な、お前の話で機嫌が悪いわ。だから──その一撃、迎え撃つついでにお前を今この場で潰しちまうかもしれねぇけど、いいか?」
「ッ!!」
「もう一度、念押ししておこうか…?」
それだけ言って、俺は軽く屋根を蹴る。
チッ、時間を無駄にした。
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