大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

自分と魔法

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そこはやけに殺風景な場所だった。
一面乳白色で、右も左も、上も下も。
影やシミ、空という概念すらなく、五分もいれば遠近感が狂いそうな所に、俺だけが突っ立っていた。
「…あ?」
ついさっきまで戦っていたヴォルテール君の姿はなく、着けていた《千変》も存在せず、シャルの気配もない。
金剣銀剣もなく、若干慌てかけたが──すぐ落ち着く。
まぁいいか。
どうせここ、現実世界じゃないし。
後頭部を荒く引っ掻きながら、その時に身体の痛みも怠さも無い事に遅れて気づく。
そんなことは些事だが。
「で、アンタ誰?」
俺が若干不機嫌になりつつそう声を掛けたのは、俺とほぼ同じ身長の誰か。
白磁の陶器のような肌、それを磨き上げ、光らせたような白銀の髪は非常に長く、それを自然に伸ばしている。だが、その美しい髪もあまりに長すぎるため、地面を引きずっている。
対照的に服は黒一色、それ故にその白い肌と髪が尚のこと目立っていた。
顔の作りは女──
え?おかしくないって?いや、おかしいね。
だってコレ、俺だもん。
俺が不機嫌なのもこれが原因。
誰が好き好んで自分とそっくり同じような存在に会わにゃならんのだ。
それも女型の。
あと俺と違う所があるとすれば──目だろうか。
緋眼に染まる前の黒い目があるべき場所には、蒼く輝く魔法陣が回っていた。
俺がそう聞くと、俺の形をしたナニカは口を開く。
『初めまして・マスター』
「…あ?」
口角をほんの少し釣り上げ、微笑らしき表情を作ったソレは初めにそう言った。
その声はどことなく無機質で、人らしくない──いや、人を真似ようとしている人形のような印象を受けた。
『私の正式名称は・《魔法技術及び魔法陣機構によって生成された第二人格》です』
「…あぁん?」
ナニソレ。
魔法技術及び魔法陣機構によって生成された第二人格ぅ?
………ん、第二人格?
「お前ひょっとして、《千変》の中の俺?」
『はい・その通りです』
すんなりと認めるそれ──いや、《千変》
うっわこれが俺?スッゲェ変な感じ。
『ただ・マスターの仰る《千変》の中の俺と・私は同じ存在でありますが・マスターの仰る《千変》とは・肉体のような物であり・厳密には私とは違いますが』
「あ、そう?まぁいいや。その辺はまた後で」
クソ真面目みたいな自分を見ていると、何となく居心地が悪い。
少し視線をさ迷わせ、しっかりとその目──にあたる所の魔法陣を見る。
「で、俺をこんな所に引っ張りこんだ理由は?」
どうせ現実世界では時間はほとんど動いてないのだろうが、俺の記憶が正しければ胸に短剣がザックリと入っていたはずだ。
あまり長居はしていられない。
端的にそう聞くと、俺は再び笑う。
『あなたとの・繋がりを強化するために・です』
あー…そういや手紙メッセージ貰ってたな。あの槌人種ドワーフから。
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