大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

探知と待ち

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『逆探知系の魔法は手順さえ整っていれば、そこまで難しくはない。しかも、この手の奴は追う側と追われる側、互いに延々といたちごっこをしてるから、技術も相当伸びたし、手段も多様化した』
シャルがそう説明する。
『だが一方で、魔族への逆探知の成功例はほんの少ししかない。何故かわかるか?』
「魔族の方が魔法……っつか魔術とかそっち系に強いからか?」
ただただ一人、何も出来ずに窓の外の景色をじっと眺める。
と言っても、既に日が落ちきって暗闇の帳が落ちた荒野だ。緋眼でも使わないと何も見えないような暗闇しか見えないのだが。
『半分正解。もちろんそれもある』
当てずっぽうで言った半分は当たったらしい。
「で、残り半分は?」
『単純な話、魔族の魔法、魔術を発見して、そこから辿る事自体が難しいんだよ。魔族の魔力が付けられていることに気づけない。気づけたとしても、こちらが気づいたことに相手が気づいて手を引くことも多い』
アーネもよく見つけたモンだ。どうやったかは知らんが。とシャルが感心する。
『そもそも魔族相手の逆探知はリスクが高すぎるからな。それに、追う側の技術が発展したのは、裏で追われる側の技術も発展してるからだ。それは当然、魔族も当てはまる』
ここで言うリスクとは、逆に仕掛けられた罠等の事だそうだ。
逆探知した側が魔族の反撃で精神を破壊され、そのまま廃人になった。なんて例は戦時中よくあったらしい。
『それを踏まえた上で言う。《臨界点》の術式の完成度は恐ろしく高い。対防御、追跡性、気づかれにくさ。どれを取っても一級品。燃費はちょいと悪いかもしれないが──まぁ許容範囲だろうよ。だから安心しろって』
「……そうか」
と言って、視界をようやく室内に戻す。
そこにはクアイを囲むようにアーネと《臨界点》が横になっていた。
「基本我輩が全てやろう。じゃが、術式の維持や安定化、その他の補佐はお主に任せたい。良いか?」
魔法を発動させ、逆探知に必須である魔族とのパスを発見した後、《臨界点》が再度確認をした。
「わかりましたわ」
「それと……もう一度言うが、我輩の事は考えるな。最悪の場合、術式を破棄して破壊しても構わぬからな」
「……えぇ、わかりましたの」
それだけ言葉を交わした二人は、魔法を完成させ、逆探知を初めた。
それと同時に二人の意識がふっつりと消え、クアイを囲むように倒れたのだ。
それがおよそ三十分ほど前か。
「……ホント、魔法が使えねぇってだけでクソの役にも立たねぇな。俺」
『まぁ今回は専門的な話だしな。前使った超級魔法が例外中の例外だ。むしろアレが《勇者》に対応していたことに驚きだ』
「対応してたって言うか……力技で破った気がするな。アレ」
その辺は最早懐かしい記憶だ。
「……あの時のアーネもこんな気持ちだったのかね」
『どうだろうな。あの時のアーネは魔法の維持で精一杯だったような気もするが』
ただ待つことしか出来ず、手出しも出来ない魔法の領域。
今はただ、彼女の無事を祈る事しか出来ない。
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