大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,918 / 2,022
本編

記憶と腐竜

しおりを挟む
「断ります」
にべもなく学校長が否定する。
「何故待つ必要があるのですか。今終わらせるのが一番確実でしょう。貴方一個人の感情を優先する必要はありません」
正論。俺のやっていることは完全に学校長の邪魔であり、学校にいる裏切り者を匿おうとしている事と同義だ。
「本当に、本当にクアイなのか?」
「間違いありません。証拠なら見せましょうか」
と言って、学校長が懐から片眼鏡を取り出し、俺の方へ投げ、それを反射的に受け取る。
「魔導具《天眼鏡》。いくつかの使用制限がありますが、条件をクリアした場合、それで覗き込んだ相手の姿を見ることが出来ます。教会が私に貸し与えた三つの魔導具の一つです」
効果は教会の折り紙付きか。それでクアイの方を覗き込む。
「!」
片眼鏡を覗き込むと、クアイという少女の代わりに、白い小柄な少女のシルエットが浮かび上がる。その胸のあたりに、拳大のドス黒い炎のようなゆらめきが見える。
それから細い綱のような物が全身に広がり、身体の内側から雁字搦めに。特に頭の辺りは強く炎がまとわりついているように見えた。
「ヒトの魔力は白。魔族の魔力は黒。彼女の身に何が起こっているかは明白でしょう」
何か特別なことをしなくとも、大半のヒトは魔力が見えるし、その属性も色として認識出来る。緋眼を持つ俺なら生命力も見ようと思えば見える。
だが、こんな明らかに悪意のある魔力がガチガチに彼女を縛っているにもかかわらず、俺の緋眼には何も映らない。
「余程の手練なのでしょう。私も全く気づきませんでした。《緋翼》には感謝しています」
「っ、だとしても」
だとしても、救いたい。
『これ掛けたの、もしかしなくてもジェルジネンだな』
天眼鏡を覗き込めないはずのシャルがそう呟く。
『そもそも、洗脳なんざアイツぐらいしかほとんど使わないがな。手練ってんなら尚更アイツだ』
《腐死者》が?いつ?どうやって?
だって奴がクアイと接触した事なんて一度も──
いや、ある。
それはリーザの身体を治した時の記憶。
リーザが背中に大きな怪我を負い、三年もの間生ける屍のようになっていたあの件。
あれに関わっていた腐竜と腐死者。
そして、あの場にいたのはリーザと、クアイ。
リーザは何年もマーキングされて生命力を吸われ続け、クアイだけが何もされずに帰ってきた?
そんな訳が無いだろう。何故こんなことに気づかなかったのか。
「……一日、一日でいい。それに賭けたい」
「またですか。メリットはなくリスクばかり。しかも今の聖学が背負い込むにはこのリスクは大き過ぎます」
「メリットならある。一つだけ。でも大きな名誉挽回のチャンスでもある」
自学が襲撃され、生徒も先生も大幅に減り、さらに英雄を頼った挙句、《魔王》の復活を阻止し損ねた聖学に、最早体力はない。
だが。
「《腐死者》のジェルジネン。あの襲撃の首謀者で、この前の聖学西学合同の件でも大きな壁になり、行方をくらませた大魔族。クアイはアイツに近づくための鍵になる」
「……根拠は?」
「二年のリーザ・ヒラム。アイツが過去に《腐死者》にマーキングされた件があった。今は解決済みだが、リーザがマーキングされた時、クアイもその場にいて無傷で帰ってきた。今思えば、その時に洗脳を仕込まれてワザと帰されたんだろう」
「それが事実だったとして、どうやって魔族を追うのです」
「俺に考えがある。だから一日くれ。あとはその情報を《腐死者》の名前を入れて教会に報告すればいい。絶対に一人は反応してくれる」
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

種族統合 ~宝玉編~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:481

まほカン

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:32

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:94

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:666

処理中です...