大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

転移と札

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三十分程経ったが、未だにヴァルクスが戻って来ない。
別に彼がどれだけ休んでも問題は無いのだが、何の連絡もないと少し不安になる。
「マキナ、メッセージ」
「了解しました」
誰に、と聞かなくてもすぐに察して飛ばしてくれるあたり、本当によく成長したなと思う。
「──申し訳ありません。ヴァルクス・レムナント様に繋がりません」
「……繋がらない?断られてんのか?」
「睡眠中のようです」
「寝てんのか」
むぅ。ちょっと休むと言って、一睡するとは思っていなかった。それほど疲れていたのだろうか。
なら、未だ口論を続ける槌人種ドワーフ共を後目に、一人で剣でも握っていようか。
「マスター」
「あ?師匠が起きたか?」
「いえ。一つお聞きしたいのですが、こちらへ来る際、アンジェ様からお預かりしたマーキングはどうなさりましたか?」
「マーキング……?」
なんの事だと首を傾げると、マキナが「ここへ来る際に渡された五角形の札です」と言う。
「あぁ、あれか。邪魔だったから部屋に置いてあるけど。なんかあったか?」
「マスターに今回施された転移は、魔法陣の様子を見るに、転移の中でも指折りの難易度の《フィッシング・ワープ》と呼ばれる種別と思われます」
あれ、マキナはあの部屋見てたんだっけ?とふと疑問に思ったが、そもそもマキナの意識はずっと覚醒してはいたので、何もおかしくはないか。
それはさておき。はて、ふぃっしんぐ……
「……フィッシング…?釣り、だっけか?」
泳ぐ魚を捕獲する際、細長い棒の先に糸と針を付け、それに引っ掛けて魚を獲るのだと何かで読んだ。見たことは無いが。
「はい。地点Aから地点Bに対象を飛ばすのが転移魔法です。一方、今言ったフィッシングワープだと、転移後の対象を一定時間経過後、対象に施したマーキングから、対象を自動でA地点へと再度転移させます」
「要は魔法一回の発動で二回跳ぶと。まぁ、帰らないと不味いしな。それがどうした?」
「最初の発動は術者のタイミングで任意です。しかし、二度目の転移は完全自動ですので、設定された時間になれば勝手に飛びます。マスター、もう一度聞きます。アンジェ様からお預かりしたマーキングはどうなさりましたか?」
「………。」
朝起きた時はあった。絶対無くすなと言われていたので、確認はしている。
で、その後は?
何時かは覚えていないが、早めに起きたから修練所で剣振って、ヴァルクスが来たから飯に行って、そのまま戻って今口論を見てる。じきに時間は昼に差しかかるだろう。
最後に見てから、何時間経った?
「……あー、ベル、オッサン、悪いけど少しだけここを離れる。この部屋から出るなよ」
激しく言い争う二人に、それは聞こえたかどうか。返事を聞かず、あるいは聞こえず、いそいそと修練所を出て、貸し出されている部屋に戻る。
無くさないように、部屋のどこからでもすぐ確認できるようにと言いつつ、どうすればいいか分からずに中央の床にポイと置いてあったそれは、見るからに過剰な魔力を振りまき、カタカタと揺れていた。
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