大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

眼と戦技

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取り敢えず、極度に集中した状態だと、始眼の性能が飛躍的に上がることが分かった。ついでに思い返すと、身体の負担も感じられない程度には軽減されるらしい。
となると、今後始眼を習得しきるためにはこの集中状態もマスターする必要がある訳だ。
改めて思うが、自分で創った戦技アーツでありながら、ここまで振り回されると言うのはなんとも奇妙な状況だ。
その事をヴァルクスに軽くボヤいたら、彼はこう答えた。
「本来戦技アーツは、身体に染み付くまで行われた行動そのものが戦技アーツと認識される。じゃが、レィア君の始眼は行動を戦技アーツとして認識しているのではない。何を戦技アーツとして認識させておるのか。そこが鍵じゃろうな」
つまり、『剣を縦に振る《大上段スラッシュ》』のように、始眼も『○○をする《始眼》』という戦技アーツであるはず。
これは戦技アーツである以上変えようが無い。かなり特異な部類になるが、連戦技アーツ・コネクトも『戦技アーツ戦技アーツを繋ぐ』という戦技アーツで、その大原則は変わらない。
何かをするための戦技アーツ
敵を斬るための戦技アーツ
それが《始眼》のはずだった。そう思って使ってきた。慣らしてきた。
そりゃそうだ。だって当たり前だろう?
剣を握っている以上、相手を斬るのは当然だ。
つまり、剣を握った以上、あらゆる行動は対象を斬ることに集約される。
その集約された線を見るのが《始眼》であるはずなのだ。
その事をヴァルクスに伝えると、彼は小首を傾げる。
「では何故、君は素手の時に始眼を発動出来た?」
「何故って……そりゃあ……」
あれ?ちょっと待て。
「剣で斬るための戦技アーツ。理屈としては確かに理解が出来る。じゃが、その場合前提条件として剣が必須。違うか?」
「いや……違わない……」
剣で斬るための戦技アーツが始眼だよな。
なら、ヴァルクスの言う通り。素手で始眼が発動するのはおかしい。先程の《大上段》の例で言うなら、手を縦に振ったら《大上段》が発動したのと同じ。
いや、待て。戦技アーツの大前提をすっぽかした、限りなく例外に近い戦技アーツを俺は編み出していただろう。
終々しゅうつい》と《音狩おとがり》。あの二つは過程をすっ飛ばして対象を斬る。
必要なのは想像力。それを元に相手を斬る。
先のルールに無理矢理当てはめるなら、『想像した通りに相手を斬る戦技アーツ』となるが、行動自体──つまりどうやって斬っているかは正直、俺自身もよくわかっていない。
この二つの戦技アーツに関しては、発動とほぼ同時に戦技アーツが終わり、敵が斬り終わっている。
その一方で、斬っているのは確定している。戦技アーツを発動し、斬ったはずなのに斬れなかったオーリアンという英雄がいるせいで、俺の《終々》は使い物にならなくなったのだし。
で、疑問は再度始眼に戻る。
始眼は何の戦技アーツか。
俺は《終々》と《音狩》の先の戦技アーツとして始眼を作った。本来なら無形の戦技アーツとして作り、発動中は全ての行動が戦技アーツになるような戦技アーツとして完成するはずだった。
しかし、完成した戦技アーツは見ただけで対象を斬る線を見出す戦技アーツ
戦技アーツとしてなら破格の性能だが、俺の求めていた戦技アーツとは違う。
いや、と言うよりも。
斬る、という事自体はどの戦技アーツより自由だ。ならばこれも『剣で斬る』と言う戦技アーツの果てに現れたモノか。
否。素手でも発動している以上、『剣』に拘る必要は無い。
さらに先程、金属の球を握りつぶすように斬った件も加味する。あれは明らかに尋常ではない。
『物を切断する線を見る戦技アーツ』では無い。
『見た物に切断される線を付与する戦技アーツ』という方が近い気がする。
考えれば考える程分からない。何故こんな戦技アーツが発現したのか。
「ま、考えるのは一旦やめだ。考えてもわかんねぇなら考えない方がよっぽどいい」
そう言って、すっぱり思考を放棄する。
「取り敢えず、修行を再開しようぜ。師匠」
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