大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

五日目と進度

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四日目が終わり、修行は五日目に突入する。
残りのタイムリミットは今日を入れて三日。それまでに始眼を制御出来るようにならなくてはならない。
だが実際の話、正直に言えばそこまで行けるかどうかは正直微妙な所だ。
底が見えない。自分で編み出した戦技アーツにも関わらず、そんな感想が出てしまう。
一本の刃物があるとする。俺は今までこの刃物で兎だけを狩っていた。だが、それがただ兎を狩る以外にも、もっともっと多くの動物を狩れるということに気づいた。そういう状態とでも言うべきか。
それに早い段階で気づけた点、ヴァルクスという協力者がいてくれた点、そして修行が安全に行えているという点。どれも非常に幸運だったと言わざるを得ない。
下手をすれば、最初の暴走の時点で頭がおかしくなっていたかもしれないのだから。
流石にあれと同じような状況になった時、ヴァルクス以外の誰かが俺を止められるとは思えない。
つまり、この機会を逃せば始眼の修行は非常に難しくなる。
加えて、現在の始眼は非常に中途半端で不安定な状態。以前より見えるものは増えたが、そのためコントロールが非常に困難になっている。
ヴァルクスはその対策として視界にフィルターを掛けさせたが、これはどちらかと言えば水道の蛇口を捻って水量を調整するようなことだと思っている。
問題は、蛇口を少しだけ捻ったら大量に水が出てしまう。そういう状況にあるという事か。
始眼が本来見せるのは「対象を斬れる線」であり、その本数に限りは無い。だが、今見えているのは絞りに絞った結果の視界。「対象を斬れる線」は「対象を最も斬りやすい線」になり、それ以外の線は殆ど締め切られている状態だ。
これをどうにかするために何が必要か。
答えは単純。暴走は俺が始眼を御せていない証拠。その結果の頭痛は俺がまだ始眼という新しい視界に慣れていないため起こる限界の証。
つまり、今はまだ俺が始眼に慣れていないのだから、慣れさせてしまえばいい。それが一番確実な方法だろう。
だが、時間が足りない。
言ってしまえば、これは精神的な筋トレと同じ方法。結果は必ずつくが、時間が掛かり過ぎる。
残りあと三日。
そこで俺は、朝食のタイミングでヴァルクスにもう一つの目的もお願いしてみた。
「なぁ師匠、前に剣技教えて欲しいって言ったの覚えてるか?」
「ああ、覚えておるぞ。それがどうかしたか?」
「それさ、始眼の修行と並行して出来ないかな?」
そう言うと、ヴァルクスが軽く笑って否定した。
「無理を言うな。前にも言ったが、儂は剣術については全く教えられん。実戦で君が勝手に儂から盗むぐらいしかあるまいよ。君の眼の戦技アーツと並行してするのは流石に……」 
そこまで言って、俺が何をしようとしているのかを理解したらしい。
「まさか君……」
「だったらさ、始眼を発動させながらやろうぜ。模擬戦」
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