大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

夜と暇潰し

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で、どこへ行くんだ?と聞いてみると、彼女はあっさりと口を開く。
『実は昔、俺この辺に住んでたんだよな』
「え、マジ?」
『嘘つく理由ねぇだろ。俺の生涯の三分の二ぐらいは王都周りに住んでた。つっても、大体任務で帰れなかったし、森のあの家みたいな所じゃなくて、お前で言う所の学校の寮みたいな所だったんだけどな。つか、せっかくやった記憶なのに、見ないのは勿体なくないか?』
「好き好んで他人の記憶を見漁る趣味は無いからな。必要分は見たが」
『そうか。まぁ別にいいんだが』
「で?なんでまたお前の家に?」
『いや?大した意味は無い。軍の施設が無くなってたから、代わりに何があるのかと思ってな……ちょっとストップ』
「ん」
言われた所で止まると、シャルが『んー』と唸る。
『王城の形も変わってるから判別付けらんねぇな。でも日が出てた時の方角的に、多分合ってる……よな?』
「知るかよ……え、何、もしかして勘で探してんの?」
『勘じゃねぇ。一応記憶を頼りに探してんだ。つっても、建物も街並みも随分と変わっちまったけどな』
「つまり手掛かりねぇんじゃねぇか?」
『一応あるぞ。王城。いや、今は王聖城だったか?あれの位置から大体把握出来る……と、思う』
やはり割と勘の部類では?大丈夫だろうか。
『まぁ、ぶっちゃけると口実は何でもいいんだよな』
「は?どういう──」
『あ、ほら、そこ曲がって。あー、行き過ぎ。ちょい戻ってそこ』
「……ホントに合ってんだよな?」
『多分な』
しかしそんな所に行きたいとは。大した意味は無いと言っていたが、こういう時は大体裏で何かを隠している。もしくは単に言いたくないんだろう。
自由時間ではあるし、夜もまだ始まったばかり。流石に寝ずに延々と探し歩くのは断るが、他ならぬシャルの頼みだ。一時間程度なら付き合おう。
「で?まだ歩くのか?」
『方角的にはこっちで合ってるはずなんだがな。んー、王城ってもっと遠かったっけ』
「遠近法で若干狂ってるのかもしれねぇぞ。聞けばあの王城、まだ増築中らしいじゃん。お前の時より大きくなってるかも」
『有り得そうだな。でも……んー、もうちょい南の方行ってみようぜ』
「あいよ」
一度大通りに出、屋台の明かりで照らされた夜道を歩く。
「軍って何してたんだ?」
『何って……まぁ大体戦ってたよ。東に魔族の拠点があるって聞いたら突撃して、西に機人の怪しげな機械があるって聞いたら破壊しにとんぼ返り。それが終わったら魔族に一度奪われた領地を取り返してこいって言われる。少なくとも、俺の所はそんな感じだったな』
「滅茶苦茶やってんな」
『ま、部隊によって違ったけどな。どこも忙しかっただろうが、俺のところは特別扱いが酷かった。使い捨ての道具みてぇな感じだったんだろうな』
「そりゃなんとも──」
言いかけて、口を噤んだ。
『《勇者》に似合った場所だ、ってか?』
「……あぁ」
『別に気にすんな。俺もそう思ったからそこに入ったんだし。つっても、一回王都に攻め込まれた時、そこ無くなったんだけどな』
「え、それ本当か?」
『本当だよ。グルーマルが多分五十年前の俺の時代を境に雑で大規模な抹消をしてるから、その辺の記録は全部消えてるけどな。だから《聖女》の結界で囲えるぐらい狭ぇんだよ、ヒト種の土地は』
と、うんざりしたようにシャルが言う。
「なるほど。で、シャル、もっと南か?」
そう言って俺が足を止め、シャルがまた唸る。
『うーん……んー……』
そこにあったのは、大きな門。南への関所だ。
『記憶違いかな。今度は北行ってみようぜ』
「馬鹿か。流石に付き合いきれんぞ」
『って言う割に北向かってるじゃん?』
「大教会は北側……っつか、王都最南端ならどこに向かって行っても大体北だろ」
と言っても、シャルは多少ふざけたように『行こうぜー?』と言うぐらい。どうも本気ではないらしい。マジで何をしたかったんだろうか。
ともかく、大教会から大聖堂の地下へと戻る。流石に今日は普通に寝袋で寝た。
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