大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

槌人種と家名

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「レィア君、槌人種ドワーフであれば何でも良い訳じゃないんじゃよ。武器や防具、その他戦闘や生活に役立つ魔導具を作れる槌人種ドワーフは多い。場合によっては義手や義足も作るじゃろう。じゃが、ただ入れるだけの義眼ではなく、物が見えるような高性能の義眼となると、それが出来るのは極僅か。本家の名を名乗れる槌人種ドワーフぐらいじゃろう」
ヴァルクスの言葉に、隣のロゼとリザも頷く。
「そうね。下級貴族を含めて百人ちょっといる槌人種ドワーフでも、それが出来るのはおそらくそれぐらい。今は確か、百四人の槌人種ドワーフに対して六人だったかしら。それに、本家の名を持つ槌人種ドワーフは、気に入った相手にしか物を作らないし、聖女様の名を借りて作らせようとしたら、どんな物を渡されるか分かったものじゃないわね」
槌人種ドワーフってそんな面倒なシステムだったのか。知り合い二人の槌人種ドワーフの顔を思い出しつつ得心する。
「じゃあダメか」
『いや待て。槌人種ドワーフって下級貴族にも家紋入りの鎚を渡したりするのか?』
ん……そういやベルはそんなもの持ってたっけ。
鎚の事を聞くと、三人が目を丸くする。
「その槌人種ドワーフの名は?」
「ベル……あー…なんだっけ、名前」
『クランベルナ・グローゾフ』
「そう、クランベルナ・グローゾフって女だ。ゼランバにいる奴」
そう言うと、今度は三人が顔を見合わせる。
「ご存知ですか?」
「いや、儂は知らん」
「私も……」
んん?
「レィア君、そのクランベルナと言う名の槌人種ドワーフが作った作品は持っておるか?」
「一応あるが。ただ、壊れて欠片しかねぇんだよな」
「構わん。見せてくれんか?」
と言われたので、髪に手を突っ込んでマキナの欠片を取り出す。
「これは……?」
ヴァルクスがそれを受け取り、親指程のサイズのそれをしげしげと眺めながらそう聞いた。
「鎧だ。元々はな。この前のアレで物の見事にぶっ壊された」
「これが?ただの欠片にしか見えんが……」
「それだけあれば、多分ベルなら直せる。というかそれが核になるからな」
「核…?鎧の?自律式の魔導具なら分からなくはないが……」
「半分当たってる。自律式の鎧だ。俺のスキルを埋め込み、同思考を持ち、考え、進化する鎧」
そう言うと、ヴァルクスが俺にマキナを返しながら首を傾げる。
「うむぅ…にわかには信じられんが、確かにその欠片、儂の目には剥き出しのヒトの心臓のような、何かの核に見える。たしかにそれの意思は生きておる。直せるかどうかはその者の技量によるじゃろうが」
ヴァルクスからマキナを受け取り、もう一度マキナを眺め直す。
俺が見ても特に何も見えない。一瞬だけ《始眼》を使ってみたが、斬る気が無いからだろうか。何も見えなかった。
「確かに、それを作った者がグローゾフと言われてもおかしくない。そのクランベルナという者と連絡は取れるのか?」
「取れると思う。が、俺はメッセージを使えなくてな。コイツマキナが無いとメッセージを受け取ることも出来ん」
「ますます鎧というより魔導具じゃの。ではその槌人種ドワーフはゼランバのどこにおった?」
「ゼランバの鍛冶師が集まる所の一番奥に、ボロい小屋があんだけど、そこにいる。今は多分もう一人、ラウクム・ナーバーヤって槌人種ドワーフもいるんじゃねぇかな。少なくとも、この前の聖学祭ん時ぐらいまではそこに住んでたはず」
そう言うと、ヴァルクスは少し腕を組んで考えると、虚空を見つめながらぶつぶつと独り言をした。
「よし分かった。今手配した。レィア君が言っておることが正しければ、そのうちそのグローゾフをここに連れてこられるじゃろう」
どうにかしてマキナを直したかったので、それ自体は非常に助かる。
ただ、こちら側から全く連絡を入れていないので、ベルからの反応が非常に怖い。
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