大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

別れと帰還

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「冗談で言ったとはいえ、条件をクリアしたんじゃ。儂も何処まで出来るかは分からんが、聖女様に事情を話し、出来るだけ掛け合ってみよう」
英雄がそう言った。
「じゃあ……」
「儂の最初で…恐らく最後の弟子じゃろうな」
「っ…頼む」
「構いはせんよ。と言っても、儂も誰かに教えたことが無い以上、良い師になれるとは思えんがのう」
この目が見た世界。それを理解していると言う存在がいるだけでずっと気が楽になる。
「ただ、儂は英雄。知っての通り、聖女様の護衛で、本来決して離れてはならんし、護衛を疎かにすることも出来ん。悪いが、お許しが出るかどうかは分からんぞ」
ヴァルクスの言葉に頷く。
基本的に、英雄は滅多な事では聖女サマから離れない。
とは言え、聖女サマ自身が王都を離れる事は割とよくあるので、それに付き従う事はよくあるのだが、英雄が単体で、しかも結界の外にいるなどというのは前代未聞の話だ。
「そういや、その英雄であるアンタが、何故魔族の都市のド真ん中に居たんだ?」
そう聞くと、ヴァルクスは少し視線を外し、何かを考えるように上を向いた。
「少し、お嬢の命令で、南の方へ来てたんじゃよ。すると嬢から緊急の連絡があってな。空中都市が落ちたらしいから、確認のために見てこいと言われたんじゃよ」
「で、丁度俺達と魔族が戦闘に入る直前に来たって訳か」
「およそそういった所かの」
そのまま結界の中に戻るまで、特に何か起こる訳でもなく、ただ《神剣》と話をしながら歩いた。
空中都市は何がどうなって落ちたのか、こちらとあちらの被害はどうなのか、その他《勇者》から《聖女》に伝えておきたい事はあるか等。
一通り話し終わる頃に丁度結界に着く。
「ほれ、もう大丈夫じゃぞ。君らも来い」
そこそこ離れた距離をずっとキープしていた他の奴らを《神剣》が呼び寄せ、彼が結界に触れると結界に穴が空く。
「通れ通れ、変なのが紛れ込まんうちにな」
英雄がそう言って全員が入ったのを確認して結界を閉じる。
「あとはもう大丈夫じゃろ。そこまで強い魔獣もおらんじゃろうし、学校まで儂がずっと付きっきりでみてやる事も出来んのでな。儂はこれから任務の報告があるから急いで王都に帰らねばならんのじゃ」
「ありがとうございました。ヴァルクス・レムナント様。このご恩は忘れません」
「何、大した手間でも無い。じゃあの」
そう言ってヴァルクスが走り去る。とても六十代とは思えん速さだが、恐らく純粋な身体能力だろう。ほぼ馬と同じ速度じゃねぇか?アレ。
「さて《緋眼騎士》。今回の件は学校長に報告しなくちゃならないんだけど、僕は見たまま感じたままの事を言ってくればいいかな?それとも、何か弁明はあるかい?」
「ねぇな。俺が失敗した。そんだけだ」
「そうかい。じゃあ一言だけ。君には失望したよ」
そう言って《白虎》が離れる。方角的に、西学へ帰るのだろう。笛を鳴らして馬を呼んでいるらしく、その音がこちらまで聞こえた。
「さて、色々あったが俺達も帰ろうぜ。こっちは馬とかねぇけどな」
空中都市に入る際、馬を放って回収するのを忘れてた。今頃結界の外でさまよってるか、魔獣に食われたかのどちらかだろう。
この後、一度置いていった馬車の所まで戻り、丸一日じっくり休んだ後、幾分回復した血を使って俺と《勇者》が交互に全力で聖学へ向かって走り、約一日で帰った。
まぁ、それと同時に本当に限界が来て三人同時にぶっ倒れ、次に意識が戻ったのは数日経って、なんて羽目になったのだが。
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