大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

眠りと目覚めと

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瞬間、今まで花から漏れていた魔力が本当に極わずかな量しか漏れていなかったのだと理解させられる。
「っ、は…!?」
魔力は本来、それ単体では存在を維持出来ず、霧散する。
そんな世界の当然の常識、ルールを真っ向から否定する。ただの純粋な魔力が超級魔法を真正面から押し返し、あっさりと西学達が吹き飛ばされる。
「マジか……」
そんな言葉しか出ない。
無形の魔法に対し、ただただありえない魔力の力技でそれをねじ伏せた。
ただ花が開いただけ。本人は姿も見せていないのに。
格が違う。そう直感させるに充分だった。
『どうする』
様々な可能性がある。
例えば、《魔王》がシエルの意識のままの場合。もしかしたら話し合いで解決出来るかもしれない。
例えば、《魔王》の力が何かしらの要因でまだ完全体と言い切れはしない場合。この瞬間に攻め切れば倒せるかもしれない。
そうでなくとも、今撤退した《腐死者》が後に《魔王》と合流されると厄介極まりない。こちらもボロボロだが、今ここで第七を切れば殺せるかもしれない。
幸か不幸か、西学の魔法もねじ伏せられた結果消えている。半魔達も逃げたのか姿は見えない。《腐死者》も戻ってくる気配はない。
殺るなら今か?
一秒足らずで指針を決定。
「決める」
何時でも第七血界を発動出来るよう、右手は空け、左手は何時でも黒剣を抜けるよう構える。
「え」
アーネも《勇者》も止まっている最中、俺だけが全力で駆け出す。
『距離十三、十二、十一──』
花と俺との距離、およそ十メートル。高さはざっと……五メートル以上、十メートル未満と言った所か?
『八』
シャルがそう言った瞬間、一瞬だけ血瞬を発動。角度もつけ、斜め上方に跳ぶ。
『二』
使用した時間はおよそコンマ一秒。瞬きの間に詰めた距離は差し引き六メートル程か。
角度が若干悪かったらしく、花弁の付け根辺りに衝突する寸前で加速が止まる。
普通ならどうしようもなく衝突し、全身の骨をへし折って死ぬだろう。
だが。
現状把握完了。
「ッッ!!」
黒剣を抜き放ち、花弁を切り落とす。さらに身をひねって身体の向きを調整。
背中が示す《魔王》の位置は花弁の中央。
舞った花弁を髪で叩き飛ばし、右手を構える。
それと同時に《魔王》が姿を表し、その姿を見た瞬間、俺は思わず呟いた。
「シエル……?」
そこに居たのは、俺がよく知る半魔の少女。彼女が一糸まとわぬ姿で静かに寝ていた。
そして疑問符をつけた理由は非常に単純。
俺が知っているシエルよりも数年分成長していたからだ。
長く美しい絹のような白の髪。黒い肌は夜闇の黒よりなお暗く、深い。
歳はおよそ十代半ばを過ぎた頃か。幼い少女という年頃から、少しだけ背伸びをしたような印象。
元々、彼女を助けるためにここに来たのだ。
──一人でも多く救いたい。
その中には当然シエルも入っている。
だが、その意識が俺の動きを致命的に鈍らせ、隙を与えた。
眠たげに開いた《魔王》の瞼。
そこから俺を見上げるのは、輝きを放つ金の瞳ではなく、何より赤い血の瞳だった。
「!!」
これはもうシエルではない。そう知っていたはずなのに、どこかで理解が出来ていなかった。
「《勇者》か」
《魔王》が一言そう言い、俺が手を振り下ろすより先に黒い魔力が彼女の身体を覆う。
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