大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
598 / 2,022
本編

臨界点と焼却炉

しおりを挟む
「さて、これで終わりかな?」
「………。」
…最後まで無言を貫き通した《臨界点》に一応確認を取り、俺はそのフードが微かに上下に動いたのを確認してから懐を漁る。
え?今何してるかって?
《逆鱗》のふるった暴力によって残骸と化したテーブルや椅子を、持ち運びやすくある程度小さくした後、それを俺の髪や《臨界点》のゴツい革手袋によって、学校の裏手にある焼却炉に運び込んだ所だ。
んで、食堂のオバチャンからマッチとかいう簡単に火をおこせるアイテムを貰ったので、火をつけて燃やしちまおうと。
使い道が無いので、最近溜まっていたゴミと一緒に焼いてしまってくれとのこと。
「お、あったあった」
髪の中から取り出したのは、小さくみすぼらしい箱。
その小さい箱の中に、細く折れそうな木切れが一本だけ寂しそうに入っていた。
…え、これだけ?これが火をおこせるの?
ひとまず、箱の裏に書いてあった説明通りに、箱の側面で細い木切れのやや丸みを帯びた先をさっ、と擦るが…。
ペキッと。
いとも容易く折れた。
デスヨネー。
『あーあ…どうすんのよ。火、つけれねぇじゃん』
…これで火をおこそうとしたら、どれだけ小さな炎でも確実に指も燃える長さだよな?
………どっかに綿と木板、あとは木の棒でも無いかね?糸は髪の毛でなんとかなるし…。
『お前、まさか擦って火をおこすつもりか?』
じゃなきゃ火ィつけられねぇだろ。
さーて、何かそういった類いの物は…。
「早う火をつけんのか?」
「…ん?」
シャル?
『いや、俺じゃないぞ』
てことは一人しかいない訳で。
「…《臨界点》?」
「確かに我輩は《臨界点》じゃが?それより、はよう火をつけんのかえ?」
声からして、多分女か。しかしフードが取れないと断言は出来ないが…いや、フードが取れても間違える奴はいるが…。
「いや、マッチが折れちまってな。どっかに木切れでもないかと探そうとしてたんだが…」
「は?折れた?鈍臭いのう。いや、力み過ぎかの?」
「やかましい」
身体のコントロールが売りの俺がそんな凡ミスとか…地味に傷ついてるんだぜ?
「全く…ほれ、ちぃと退いてみぃ?」
「んおっ」
《臨界点》に押しのけられ、簡単に退かされる俺。
そのまま《臨界点》は焼却炉の口を覗き込んだ。
「ふんふん、特に水分はないようじゃの」
「あ?水分?」
それがどうした?と聞こうとした所で《臨界点》が懐から、一つ蓋をされた試験管を取り出した。
中にはやや黄色がかった液体が試験管の半ばまで入っている。
『あれは…油か?』
俺より目のいいシャルがそう呟く。
《臨界点》はその試験管の蓋を外し、中身を焼却炉の中にぶちまける。
それと同時、即座に焼却炉の蓋も閉める。
次の瞬間、焼却炉の中で爆発が起こったらしい。
焼却炉が揺れ、天辺から黒い煙を勢いよく吐き出す。
「うむ、完璧に燃えたようじゃの。それでは我輩、ちと用事があるから、ここで失礼させてもらうぞ?」
「お、おう」
驚いた俺の顔を嬉しそうに見、そのまま去っていく《臨界点》。ちなみに、もちろん顔はフードで分からなかったが、何となく俺を見て楽しんだんだろうな、と分かった。
「また会おう。《緋眼騎士》」
「ん?またな、《臨界点》」
そう言って俺達は別れた。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

種族統合 ~宝玉編~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:481

まほカン

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:32

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:94

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:666

処理中です...