大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

交戦と混戦10

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ゆらり、と。
目を開いて顔を上げ、抱くようにして持っていた双刃を杖のようにして壁際から立ち上がる。空いた手で鈍く痛む頭を押さえ、「あぁ…」と溜息とも吐息とも取れない微妙な掠れ声を出した。
『気分はどうだ』
「最悪の寝覚めだな」
「あんだけ寝といてよく言うわね!」
「あぁいや、アンタに言った訳じゃなくて──」
そう言いかけて口を噤んだ。
少し目を閉じて、目を開けた。俺からすればそれだけの事なのだが、それを俺にさせるのは一体どれだけ大変な事だったか。
チィズの姿は一つしか無いし、《白虎》も《鰐》も傷だらけ。そして離れた位置で起こる魔法の余波や流れ弾。
だと言うのに、俺の周りだけ妙に小綺麗なのだ。
「…助かった」
「何言ってんの!どっかの誰かさんが寝てたせいで、戦局は悪い方に流れてんの!結局起きるまで五分よ!倍以上かかってんだから、その分働きなさいよ!」
「ああ」
双刃を蹴飛ばして初速を得、いつもより力を込めて早めに回し始める。
『行けるか』
「行くか」
そう言って、床を蹴って走り出す。
《腐死者》も俺に気づいたようで、西学の奴らの横を通り過ぎた瞬間、死体の弾幕が俺を襲う。
『行けるな』
「余裕」
五分の休眠。それだけで動きが良くなったり、身体が軽くなったり、あるいは物がよく見えたりする。
──そんな訳があるか。
動きは鈍いし、身体は重い。目は普通に片方潰れているのだから、どうあっても視界に影響が出る。
だが、精神的には余裕が生まれる。
例え動きが鈍かろうと、身体が重かろうと。
いや、もっと言うなら、この腕が千切れていようと、腐っていようと、俺の身体ならば、動かすことが出来る。
そうあれと作られた俺の能力が、実際の動きを外側から俺の理想の動きに上書きし、再現する。
そして失った右目の視界は──
『腕二、指三。来るぞ、三、二、一──』
「ッ!!」
シャルが間合い把握とタイミング調整を行い、感覚を掴ませる。
『眼が二つ無いと、遠近感が狂う。モノのサイズである程度は推測がつくが、それを利用されたら距離を間違えて死ぬ。いいか、自分の感覚も大事だが、それ以上に俺を信じろ』
「頼むぜ」
双刃を回転させながら、自身も回転。
初速を加速させ、高速で回る双刃を今以上に速く回す。
回転は力となり、力は破壊を産み、その破壊をもってして道を切り開く。
さぁ退け。
身体全てをスキルでコントロールするのは骨が折れる。身体が疲労に気づく前に。
すぐ退け。
斬って斬ってまだ進む。アーネの背中がすぐ近くに来て、それを追い抜いた。
とっとと退け。
女半魔と《勇者》の背中を飛び越え、縦回転しながら全力で双刃を振り下ろす。
「《満欠月みかづき》!!」
「むッ!」「なっ!」「くっ!!」
双刃が三者の間に割って入り、一瞬だけ空白を産んだ。
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