大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

狂犬と鮮撃 終

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戦技アーツ《千斬》。
どんな戦技アーツかと言うと、内容は非常に単純。
全方向への斬撃…それだけだ。
ついでに言うと、千回も斬らないしな。
加えて言うと、全方向へ尋常じゃない数の斬撃を放つが、その命中率、威力は異常なまでに低い。
「異常なまでに派手かつ、とりあえず全方向へ攻撃は出来るけど、威力はほぼ無い」という、見せかけだけの戦技アーツ
しかし、今回はそれでいい。それがいい。
銀剣を俺の頭上越しに縦に振りかぶり、銀剣の先が地面につくほどに引き絞る。
『セイッ!!』
ふり抜かれた銀剣は地面を抉り、その勢いを利用して空中で一回転。
地面を抉る一撃を繰り出しつつ、その反動で空中に完全に浮き、唯一地面に繋がっている銀剣を軸に空中でさらに横に一回転。
その際、左の長剣で周りを薙ぎながら銀剣を引き抜き、完全に宙に浮く。
浮遊時間はわずか一秒か、二秒か。
それだけあれば。
剣が二本あれば。
俺のスキルがあれば。

全て弾き散らせる。
『心の底から震えろ──駄犬』
俺の髪を赤く染めた代償ツケは、噛み付くだけのクソ犬に払えんぞ。
剣が風を裂く音は、たった二回だけ。
しかし、振った回数は百を軽く超える。
戦技アーツになるまで繰り返した動作ではあるが、本人にも認識しきれない程の斬撃は、その多くが外れるも──ほんの少しは当たったようだ。
手元に残ったアタリの手応えは、二十八撃ほど。
それを確かめながら、地面に着地する。
振り終わり、戦技アーツ特有の隙…硬直が解け、左手を元に戻しつつ顔を上げると、周りには黒い犬がえーっと、一、二、三…二十五?
よく見ると、少し離れたところで一匹だけ肥大化していっているマッドハウンドがいる。
なるほど、あれが本体か。
転がるダミーマッドを蹴散らしつつ、本体へと向かう。
複数体じゃあ足りないと判断したマッドハウンドが、強力な一個体になり直して襲うつもりか。
魔獣とはいえ、所詮犬か。
『お前馬鹿か』
言葉が通じるかどうかは知らないが、思わず言葉が漏れる。
『今さっき、一匹で突っ込んでぶっ飛ばされた所じゃねぇか』
どうせ結果は変わらないのだが、それ以上デカくなり過ぎると──。
『核の動く範囲が広くなり過ぎて面倒だからな。そこまでだ』
これまで散々殴りまくった。
もう核が動くパターンは間違えない。
『動くなよ?ズレる』
狙いすました一撃が後ろ足の付け根を強く打ち、核が動くのを感じた。
『そこ!!』
それが犬の頭蓋の中へと逃げ込んだ瞬間、肩に担がれた銀剣が赤い光を放つ。
『《破断》!!』
斬れないはずの銀剣が、黒い狂犬の頭を叩き割ったと同時に、その身体がヘドロのように溶け始めた。
これで確実に死んだか。
あー、あとから頭、止血しとかなきゃ。
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