大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

交戦と混戦3

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俺が《腐死者》に迫り、同時に《腐死者》の杖がカァン!と激しく床に打ち付けられた。
瞬間、突如床から生え、一直線に蔦が俺に伸びる。それが三本。
即座に身体を捻り、空中で一回転しながら三本の蔦を切断。その時に溢れた泥色の液体と腐った血の匂い。それが蔦ではなく、縄のように細く強く束ねられた、ヒトの腕のようなものだったのだと気づいたのは斬ってからだった。
そして、俺がそれを処理している一瞬の間に《腐死者》はまた口を開く。
その行動を剣士で言えば、剣を構えたと言う意味と同じ。
「黙れ」
カカッ、と素早く二度床を叩くと、俺の動きが完全に止まる。
「なっ」
魔術。恐らくは対象の動きを停止させた、という結果を持ってきた。
第四血界を発動していなかった故に、それは俺の身体をがっしりと掴み、完全停止状態に持ち込まれる。
あまりに急に止まるので、慣性が俺を押し飛ばし、無様に床に転がる。
それを見下ろす《腐死者》の冷ややかな目とあった。
不味い。死ぬ。
「消え失せろ」
再度杖が床に振り下ろされ、音が響く。
その瞬間、《腐死者》の目の前に何かが飛び込んだ。
白くて小さい毛玉のように見えたそれは、きっと近すぎた《腐死者》には何か分かるまい。
緋眼が捉えた白い毛玉。それはただの小さなネズミ。
そのネズミが、凝視していたにも関わらず、次の瞬間には巨大化していた。
いや違う。巨大化したのではない。ヒトになったのだ。
そして、突如現れた細く長身のヒトが《腐死者》の視界をその身体で完全に塞ぎ、魔術が発動した。
魔術の絶対ルールとして、魔術の対象は視界に入ったものだけ。
結果、魔術は俺にでは無く、発動の瞬間に割り込んだヒトに対して発動。
《腐死者》の目の前に飛び込んだヒトの腹が消し飛び、上半身と下半身でバラバラに地面に落ち、同時に俺の身体の自由が効くようになる。
即座に跳ね起き、再度《腐死者》に突撃を仕掛け──
『西学まで下がれ!』
──る、寸前にシャルがそう叫ぶ。
何故シャルがそう判断したのかは分からないが、今俺が《腐死者》に特攻をしようとしたのは「それしか手が無かったから」であり、最善の手ではない。
そして、シャルもそれが分かっているからこそ、彼女自身が見た何かによって俺に下がれと言ったのだ。
俺もそれが分かっているから、彼女がそう言った瞬間、俺は一も二もなくその言葉に従った。
今転がった誰かの死体を《腐死者》に投げつけ、それと同時に《血呪》の力を利用して一直線に西学の所へ向かう。
下がる瞬間、誰かとすれ違ったが、それを確認している余裕も暇も無い。
「《緋眼騎士》!アンタ大丈夫!?」
そう声をあげるのは《クロコダイル》。
顔を上げて周りを見ると、西学の奴らが勢揃いしていた。
《勇者》も相当キツい目をしているが、一旦は止まったらしい。多分《亡霊》が何か言ったんだろう。
「なんとか生きてるよ。聞きてぇことは山ほどあるが、それも一個だけにしとく。お前らは敵か?それとも味方か?」
「僕らはいつでも味方だよ。ヒトのね」
険しい顔をしながら《白虎》がそう言う。
「……なら、その言葉を今は信じる」
剣を向けられたことを忘れた訳では無い。
同じ敵意を向けられたシャルが、それでも行けと言った先である点、そして一度は剣を交えた相手への感想として、一度ぐらいなら信用できると思えただけだ。
髪の中からアーネを下ろしながら。前方を見る。
「そいつを頼んだ。少し休ませてやってくれ」
すると、視界の先ではあの女半魔が《腐死者》に猛然と襲いかかっているのが見えた。
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