大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

交戦と混戦

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何がどうなっているかの理解をする前に、状況が動いた。
《腐死者》の床を叩いた音がコォン…と響き、そこから波紋のように床がさざ波立つ。
そして一拍空けて、部位が欠損した屍者グール達が床から生える。
「消えろ」
皿に二度、短い間隔で《腐死者》が床を叩くと、赤黒い靄がグール達を覆う。
「行け」
《腐死者》がそう言うと、グールが猛然と走り出す。
いや待て、あの走り方はおかしいだろ。
完全に生身のヒトの全力疾走じゃねぇか。
咄嗟に逃げようと身を翻すが、その先に半魔族の女。
「くっ!?」
『斬るか』
それしかないだろう。
銀剣を握り、踏み込むと同時に姿勢をガクンと低く下げる。
その瞬間《勇者》が俺を飛び越え、女半魔に飛び掛る。
二方向からの同時攻撃。即席の連携にしては上等だろう。
「なっ!?」
女半魔が驚愕の声を出し、剣を構える。完全に俺達の行動を見、驚き隙を晒した。そしてその後に動いたにも関わらず、女半魔の防御が間に合う。
辛うじて届いた防御を、俺と《勇者》が同時に弾き、脇をすり抜ける。その時、動きが止まったままの女半魔の背中を蹴飛ばし、グールの方に突き飛ばしながら逃げる。
「貴様っ!?」
女の声を無視し、ひとまず西学の方へ向か──おうとしてストップ。
状況が本当によく分からない。飲み込めない。
だって。何故。
何故、西学は今俺達に剣を向けかけた?
それも偶然ではなく、明らかに俺達に敵意を持って。
「ちがっ」
武器を向けられた事実に一瞬戸惑い、《白虎》が何か言いかけたが、それももう遅い。
動いたのは俺や《白虎》では無かった。面識があったからこその一瞬の空白。
だが、初めから面識のない《勇者》にはそんな空白が存在しない。
彼女には一応、事前に説明してはあった。
西学という仲間がいるという事、その風貌や特徴も言ってあったし、悪い奴達じゃないと、ちゃんと言っておいた。
そう、言っておいたのだ。
だが一度たりとも会っていない相手に対し、どれだけ他人が説得しようと、「敵意とともに刃を向けられた」という事実があれば、その全てが崩れ去る。
特に《勇者》という、周りが敵に囲まれて育つ者が相手であれば尚更。
殺られる前にやる。単純明快、それでいて《勇者》であるなら「存在を知られてはならない」という点を一番楽にクリアしてしまう。
女半魔に斬りつけながら、流水のように抜けて着地した《勇者》が、そのまま西学に向かって剣を構えて駆け込む。
「待っ」
俺の言葉を掻き消すような音を立てて剣と剣が交わり、その音を更に潰すように、グールが押しかけてきた。
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