大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

音と情報

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階段を一段登る度、酷い振動が塔を揺らし、爆発音のようなものが臓腑を底から揺らし上げる。
それは俺が今まで生きてきた、剣のある世界では有り得ない音。
魔法と魔法がぶつかり合い、互いに炸裂し、そして潰し合う。
階段が終わる頃、部屋への入り口がこれまでとは打って変わって光に溢れているのが見えた。
そして部屋の明かりを押しのけるように、過激な光が時折光り、爆音が鼓膜と身体を揺さぶる。
何故塔を登る際、魔族が一人ずつ配置されていたのか。
単純な話だ。邪魔なのだ。
魔族──妖魔族という存在において、すぐ隣に誰かがいるという事は、メリットではなくデメリット。強くなればなるほどその傾向は強くなる。《産獣師》がその最たるものではなかったか。
だからこそなのだろう。《魔王》を守るためにこの塔という建築物を選んだ理由は。
逃げ場が無く、必ず守り手の魔族と遭遇し、その魔族が最大の力を発揮出来るという状況を押し付けられる空間。ゼクターという魔族は例外中の例外だったのだろう。
群れないのでは無い。群れる必要が無いのでも無い。
群れてはいけない。隣に誰かがいると言うのが一番邪魔。
そう言い放つかの如き大魔法の連発。こうなれば、塔に亀裂が入っているのは当然。むしろ未だ倒壊していないことに疑問を抱くようなレベル。
壁に背をピタリと合わせ、部屋の向こうを覗き込む。
瞬間、俺の目の前を氷の槍が通り抜け、そのまま通過して轟音と共に壁を砕く。
「──ッ!!」
危ねぇ。下手に出てたら最悪死んでた。
警戒しつつ、再度そっと覗き込むが、魔法らしき閃光とそれが上げる煙でよく見えない。それでも辛うじて分かるのは声。
詠唱であったり、あるいは誰かの怒号、悲鳴。頭をすぐ下げ、そういうものを拾って、辛うじて数を割り出す。
だが。
『多くないか?』
「八……九人?」
塔の中は決して広くない。狭すぎるということも無いのだが、魔族の広範囲魔法が飛ぶのなら、実質的に逃げ場は無い。そのぐらいの広さ。
その場にいて、なおも何人も残っているというのは、正直言って有り得ない。
《勇者》でも無ければ魔族の魔法は耐えられないし、魔法の裏を突くように放たれる魔術は、訳も分から無いうちに命を刈り取る。
そして何より数が多すぎる。西学の面子は三人。全員無事にここへ来れていたとしてもその倍以上の数はどこから沸いた?
《勇者》が、どうする?と視線で聞いてくる。俺に合わせるらしい。
とりあえず黙って指を九本見せ、次いで部屋の方に親指を向ける。
すると《勇者》が怪訝そうな顔をして、三、三、三、と区切って指を見せる。魔族、西学、あと謎の勢力の三つが、三人ずつで戦ってるのかと聞いているようだ。
どうだろうか。音の位置や動き方からして──
少し考え、二、五、二、と指を出す。
しばしの沈黙。
「配置」
小さく小さく、そして端的に《勇者》が問い、俺が指で軽く図説する。
音が非常に乱れ交っているので、詳細な情報でも正確な情報でもないが、恐らく。
丁度三角形のような配置。一番遠いのは多分五人の所。だが位置がめぐるましく変化しており、三角形の形を保ちながら近づいたり離れたりを繰り返す。
「ん──」
そこで説明しながら気づいた。攻撃の方向が互いに互いを狙いあっているのではなく、五人組と二人組が同じ二人組に攻撃し、攻撃されている二人組が五人組と二人組に攻撃している。
自分で言ってて分かりにくいな。一度分かりやすくする。まず、ふたつある二人組をA、Bの二つで区別する。
五人組とAがBを攻撃し、Bが五人組とAを相手取っているのだ。
つまり、五人組とAが一時的に協力関係にある……?
──これ以上考えていても分からないか。いい加減突入するしかない。
そう思った瞬間、丁度デカい魔法がぶつかったらしい。一際大きな音と光が炸裂した。
それと同時に、俺達は合図も何も無く部屋の中へ突入した。
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