大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,792 / 2,022
本編

産獣師と勇者3

しおりを挟む
流石の《産獣師》も、これには反応が精一杯だったらしい。
咄嗟に右手で顔をガードするも、その上から蹴りを受けて真横に吹っ飛び、壁に叩きつけられ轟音を響かせる。
「なっ、お前、どうやっ!?てかアーネ!?」
「落ち着け。話は後だ。女も大丈夫。そんで早い話、俺はアンタの所に跳ぶ事が出来る」
肩を竦めながら《勇者》がそう言う。
『スキルか……そういやコイツ、お前と初めて会った時、足折ってたのに逃げ切ってたな』
さっきも《産獣師》から逃げてきた時、突然俺の背中に現れてた。ともかく、ほぼ間違いなく瞬間移動系の能力か。
「あとこれだ。落としモンだぜ、お兄ちゃん」
そう言って手渡されたのは落とした黒剣の柄。
「助かる…じゃ、行くぞ」
「ああ」
壁を足場に踏ん張り、《勇者》を《産獣師》の方へと髪で投げ飛ばす。
射出の瞬間、俺の髪を《勇者》が強く蹴り、一層強い勢いと共に《勇者》が跳ぶ。
「《勇者》アアアアアア!!」
そんな叫び声を上げながら、《産獣師》が壁から起き上がる。そして今投げ飛ばした《勇者》を真っ向から睨み、左拳を振りかぶる。
大振りなそれは明らかに素人臭い動作だが、魔族特有のものか、あるいは魔族からもかけ離れた姿から繰り出されるが故のものか、相当の勢いで放たれた。
《勇者》もそれに応戦。叩きつけるように剣をぶつけるが、《勇者》の剣が折れるような様子も、《産獣師》の拳が割れるような様子もない。
『どっちも何かしらの手が入ってんな』
普通、剣はあんな衝撃に耐えられるよう作られていない。恐らくは槌人種ドワーフによる逸品だろう。
一方、《産獣師》の拳もほんの十秒前に二の腕辺りまで切り裂いた。その傷が、既にほぼ完璧に塞がっている事の証左。
いくら魔族が異常な身体能力等を持っているとはいえ、流石にあそこまでの回復力はない。それこそ異常の一言に尽きる。
殺すならきっと、心臓を貫くか、頭を潰すか。この二つに絞られるだろう。
「さて、行くか」
何となくだが、まだ《始眼》は使える気配がしない。あれがないと、黒剣を完璧に扱えない。もしかしたらそのうち《始眼》すら要らないようになるのかもれないが、それはまだまだ俺が知らない先だ。
壁を蹴って斜め前に前進を二度ほど繰り返した所で、ドゴンという凄まじい音がした。
《勇者》達の方を見ると、壁に剣を突き立て、長い長い傷跡をつけながら《勇者》が下へと吹っ飛ばされる。《産獣師》の体勢的に、どうやら下へ殴り飛ばされたのを踏ん張っているらしい。
そして《産獣師》が俺の方へと狙いを定めた瞬間、《勇者》が背中に戻ってくる。
「くっそ」
「大丈夫か?」
「剣で受けた。が、今ので両腕の感覚がほとんど無い」
そう言って《勇者》が血呪を一度解除する。
バケモンが。たった一撃だぞ。生身で受ければ確実にミンチになる。
「《勇者》ッッッ!!」
三度《産獣師》が骨の翼を広げ、俺達に迫り来る。
受けるしかないか。多少足場を吟味出来たので、黒剣を銀剣に戻せば何とか防御は間に合うか?
「落ち着けお兄ちゃん。飛んでる敵は得意だろ?」
「あ?」
何を言ってる。そう言おうとした瞬間、閃光にも似た炎が、下から空を貫いて《産獣師》を穿った。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

種族統合 ~宝玉編~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:481

まほカン

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:32

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:94

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:120pt お気に入り:666

処理中です...