大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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外伝

初陣の話 終

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手には首。
白目を剥いて涎を口の端から垂らす、魔族の首。
それが既に三つ。
(あと何人いる?)
『魔族はまだ十人近くいるな。逆に、お仲間さんたちは半分ぐらいか。奇襲がバレてたって事を差っ引いても死にすぎじゃね?クヒヒッ』
「そうか」
たしかに今も、下で三人の黒鎧が三人の魔族に追い詰められている。
数の上では対等だが、実力の上では隔絶した差の相手が迫って来る。
恐らく彼等は、絶望の真っ只中にいるのだろう。
助けようと思えば助けられないこともないが──彼女は助けない。
元々、どうやって自分に泥を塗ろうかと考えていた連中がほとんどだ。
なら、どうなっても構わない。
そう思いながら見下ろしていると、その中のひとりと目が合った──気がした。
いや、視線がこちらに固定されている。見られている。
明らかに不自然な視線は、遠からず魔族に気づかれるだろう。
今から身を隠しても…魔族に気づかれるか。
ならば。
今の首を棄てて、新しいのを拾うか。
「第三血界起動──《血刃》」
飛び降りながら少女がそう呟くと同時に、右肩の辺りから纏わり付くようにして血が溢れる。
それが伸びていき、肘を伝って指先へ。
中指の先までにたどり着いても更になお伸び、一メートルほど伸びた時点で動きを止める。
巨大な刃の形を保って。
神が創造した特殊ユニット《勇者》、その特殊能力の一つ《血界》。
全部で七つから成る血によって為されるそれの中の一つ、《血刃》。
効果は『絶対切断』。ありとあらゆる物質を必ず切り裂くという、言わば最強の矛。
魔族の目の前に着地したと同時にその刃を振るい──
「一人」
それでようやく気づいてこちらに振り向く魔族を──
「二人」
既に気づいて魔法を編んでいた魔族の懐に入り込み──
「三人」
ここまで僅かな時間しか流れていない。
新たな敵かと思った黒鎧は、今更これが仲間であると気づいたらしい。
「お、おぉ、チビ丸。ありがと」
ぞふっ、と。
血の刃がその身体をも貫く。
「あ、が?」
「一つ、俺の事をチビ丸と呼ぶな、そう言ったよな?」
そのまま刃を真横に振り抜き、胴を輪切りにして、さらに振り返る。
彼女の剥き出しの顔、そこにある目を見た瞬間に、残りの二人も気づいた。
──コイツ、俺達も殺る気だ。
「一つ、お前達は俺の秘密を知った」
逃げようとした男目掛けて刃が振るわれ、首がごろりと転がり落ちる。
遅れて噴き上がる血しぶきに身体を赤黒く染めながら迫る様は、さながら死神。
それから逃れようと、抜けた腰で後ずさろうとする最後のひとりへ、静かに足を向ける。
「一つ」
どん、と衝撃を感じ、後ろを見ればそこは彼女がつい先程まで立っていた家の壁。
逃げ道はもう、ない。
「や、やめてくれッ!言わない!誰にも言わないからあああああああああああああああああッッッ!!」
はお前らが大ッ嫌いだ」
渾身の力で横に振り抜かれた血剣は、黒鎧のみならず後ろの家すら真っ二つに叩き斬る。
その後、同族は殺していないと言ったふうに、こう言うのだ。
「次はどこだ。教えろ《亡霊》ども」
そんな《勇者》に期待を持ちながら、過去に《勇者同族》だったとのたまう声達はこう答える。
──了解、貴女の御心のままに、《勇者ブレイバー》よ。
── ── ── ── ── ── ── ── ──
彼女が初めて黒鎧部隊として出た戦いである、デリチン広原の戦い。
この戦いでは、ヒト種の部隊十三名に対し、魔族が二十二名、十人近い差があるにも関わらず、ヒト種の損害は僅か七名、対する魔族は全滅となった。
この戦いで活躍した一人の少女の名前が広まるのは、まだ少し先の話──。
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