大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

塔と魔族

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『おいレィア!大丈夫か!?』
「うぉっ」
闇から解放されて、真っ先に聞こえたのはシャルのそんな声。
ついで聞こえたのは、《勇者》の「あっ」という完全にやらかした時の声。
声はギリギリ俺の死角に入る横から。振り返って見てみると、《勇者》が今まさに拳を高々と振り上げて、繰り出した瞬間だった。
「危なっ」
思わず声を上げ、手のひらで受け流す。幸い《勇者》も即座に力を抜いていたらしく、流すのはそう難しくはなかった。
「何してんだお前」
「いや悪い。なんか嫌な気配がそこにあったから仕留めようとしたらお兄ちゃんだった」
「……拳で良かったよ」
そう言いながら、床に落ちていた《勇者》の長剣を拾い、彼女に渡す。
彼女の言う嫌な気配は多分シエルの事だろう。今更《勇者》同士のあれこれを改めて言うほどではないだろうし。
剣を渡す際、ついでにひとつ質問をしてみる。
「お前には何が見えてた?」
「別に何も。ただただ真っ暗で何も見えなかったよ」
剣を受け取り、鞘に収めながら彼女はそう言った。
「そっちは?」
「んー?まぁ同じようなもんだ。だから斬った」
『斬ったってお前…』
「軽く言って軽く出来る事じゃないが…」
肩を竦めてそう誤魔化す。
「分からねぇし心地悪かったしな。ま、とりあえず登ってみようぜ」
指さした先には細い上りの階段。そして《魔王》の反応は上から。
階段で一列の状態を、それこそ《腐死者》等に狙われたら大惨事確定。個人的に絶対に上りたくないのだが…流石に外壁を登るなどという行動は──出来なくもないが、迎撃された場合のデメリットが大きすぎる。
内側から塔を壊すことも一瞬脳裏をよぎったが、半々の確率で埋まりそうだったのでやめた。仕方なく二人とも黙って登っていく。
塔の中には複数の部屋が層のように重なっており、階段を昇ってすぐにまた部屋、という形になっているようだ。しかも面倒なことに、次の階段へはいちいち部屋を突っ切って対面の階段に行く必要がある。
魔法陣が書き詰められた部屋や謎の触媒が大量に置いてある部屋、よく分からない道具が雑多に置かれた部屋や古い本が大量に仕舞われた部屋などがあったが、どれも空き部屋らしく誰もいない。
いや、そもそも誰かがいたような形跡が殆どない。長年使われていなかったような雰囲気だ。
しかし全く誰もいない訳では無いようだ。
「……いる」
「……いるな」
『……いるわ』
その階には魔族が一人、背を向けて座っていた。
「ん…」
どこかで見た事のあるような。一瞬だけそう思いかけたが、魔族の知り合いなどはいないし、見かけた奴はほぼ殺している。殺し損ねた奴もしっかり覚えているので、見た事のあるような、と言ったあやふやな事は無い…はずなのだが。
魔族にしては珍しい、筋骨隆々と言って差し支えない身体、狼や獅子と言った荒々しい脈動を感じさせる、癖の強い髪が無防備に晒している背中を覆うほど長く広がっている。
「──知らねぇ奴が二人、か」
そう言って男が立ち上がり、振り返る。
「──あ」
その顔を見た瞬間思い出す。
去年の進級テストで空中都市に入る際、手を貸してくれたあの魔族。彼だ。
しかし彼はあの時に纏っていた比較的柔らかい空気とは違い、濃密な殺気を放っていた。
『……まさか。嘘だろ?おい、不味いぞレィア、あいつは──』
「悪いがここは通さんぞ」
そう言った魔族が、既に俺の目の前に居た。
「っ!?」
『三大魔侯の一人、《波壊王はかいおう》だ!』
防御が間に合わない。
直後、《波壊王》の拳が俺の鎧に触れ、一瞬でマキナが崩れ去った。
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