大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

痛撃と撤退

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何が起きたか認識不能。
本能が警戒を叫び、身体が反射的に防御反応をしてももう遅い。
起こった結果だけは非常にシンプル。
《腐死者》の魔術が俺の第四血界を貫き、俺へダメージを与えた上で後方へ吹き飛ばした。
「がっ…は!?」
『レィア!?』
瓦礫に突っ込んでようやく止まる。辛うじて受身は取れたが、果たしてどれだけ意味があったのやら。
視界が痛みで真っ赤に染まり、全身の筋肉が収縮するような感覚と、身体の端から生きるために必要な力が抜けるような感覚が同時に来る。
何かが急速にせり上がってきて、それが押しとどめることが出来ずに口から溢れる。
血だ。それを見て思わず「もったいねぇ」と小さく口から洩れた。
『意識はあるか!?大丈夫か!?』
「痛くて寝てらんねぇ。だから大丈夫じゃねぇ。っと、アーネは?」
立ち上がりしな、くらりと来たがそれぐらいか。全身痛むし、血を吐く程度には内側も不味い事になっているが、戦闘続行が不可能な程ではない。
『まだ無事。上手いこと視界遮れたらしいな』
「了解」
それだけ分かれば充分。今の衝撃で折れた黒剣を鞘に納刀、即座に地を蹴って距離を詰め直す。
アーネに向かって飛ぶ手を全て切り払い、そのまま《腐死者》へと突撃する。
「痛かったぜ《腐死者》ァ!!」
「──ふむ、意外と頑丈だな。流石は《勇者》」
俺と《腐死者》の間に十体を優に超える死体が再び湧き出すが、再度剣を抜き、真横に思い切り薙ぐと、死体が全て輪切りにされて動きを止めて崩れ落ちる。
「魔法、魔術、それに類する能力を全て断ち切る剣……か。いや、それすらも正しくはない。もっと純粋で単純。全てを投げ打った愚かの極み──」
「死ね」
一瞬であった距離を詰め、剣で《腐死者》の首を刎ねる。
が、しかし。
「あ──?」
「これでは些か分が悪いな。逃げさせてもらう」
「クソっ!?」
ひょいと俺の剣を避け、そのまま地面に溶け込むように消える《腐死者》。あまりに一瞬の事で反応出来なかったが、ひとまず撃退出来ただけ良しか。
『三分です』
「アーネっ!行けるか!?」
そう叫んだ声に反応する様子はない。
「…アーネ?」
辺りを警戒しながら恐る恐るアーネの方を向く。
すると、先程までは目を閉じ静かに詠唱していたアーネがいつの間にか倒れ、ピクリとも動いていなかった。
「アーネッ!?」
慌てて駆け寄り、身体を起こすと異常な発汗。脈も早く、息も荒い。
『体温、三十八度二分です』
「高ぇ。短時間に魔力を使いすぎ──」
いや、違う。魔力を使いすぎたからでは無い。
視線はアーネの足首へと注がれる。
彼女の足首には直径一センチちょっとの穴が三つほど、等間隔に並んで空いていた。
それが何でどうやって空けられたか、辺りに散らばった死体から簡単に想像が着いた。
「まさか──」
何故あいつがあんなにあっさりと引いたのか。
彼女が握っていた拳を開くと、そこに石はない。周りにも当然転がってなどいない。
「やられた」
石を取られた。
しかもアーネに《腐死者》の呪いを刻まれた上で。
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