大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

逃走と超巨躯

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無差別かつ広範囲へ扇状に広がった火球が、なにかに触れる度に爆発。さらにそのまま直進し続けていく。
「今のうちに!」
「わぁってる!」
血界を解除し、アーネを抱えて建物の陰へ入り、そこから奥へ奥へと逃げる。まずは退避。あの数を倒すには血が足りなさすぎる。
《勇者》に声を掛けなかったが、状況的に奴も逃げるしかないと理解しているはず。
奴に渡したマキナはごく僅かだが、あれでも一応マキナの一部。本体へ戻ろうとする能力は残っているので、それを利用すれば合流は出来るはず。そこの考えに至るかどうかは別として。
「痛っ」
「静かに。治しますわ」
「…助かる」
ある程度は離れた。背中の熱も多少は収まった。足を止め、右手のマキナを解除してアーネに見せると、予想以上に酷かったのか、彼女が顔を強ばらせる。
「…血は足りてますの?」
「大丈夫だ」
「顔色、悪いですわよ」
「暗くてそう見えるだけだろ。お前も魔力は?」
「ちゃんと溜め込んで来たから余裕ですわ」
と、アーネは言うが、緋眼で視ればそれが嘘であるのはすぐに分かった。
「…遠いな」
陽光都市の真ん中にそびえ立つ塔。あの中にシエルがいると感覚が伝える。
だがここからどれだけ離れているのか。ちょっとやそっと走っただけでは、近くに寄る事すら出来まい。
だと言うのに、ほんの少し都市に入っただけで無数の魔族が砂糖に群がる蟻のようにわんさかと押し寄せる。
「今はこれで…」
「いや、充分だ。サンキュー」
右手で拳を握れる。骨や血肉が剥き出しではない。それだけで充分過ぎる。
そろそろ行こう、そう言おうとした瞬間、大きく都市が揺れた。
「「!?」」
何事か。姿勢を低くしつつ、銀剣をいつでも出せるように胸元へ手を伸ばして様子を伺う。
「あれ…」
そう言ってアーネが指さした方を見ると、その原因が分かった。
「なんだありゃ」
ヒト。一言で言えばそうだ。だがあのサイズはなんだ。
内包する魔力量、立ち上がる前からしてデカいと分かるサイズ、そしてこちらに向けられている訳でもないのに、立ち竦むような威圧感。
「ギガース…?」
大きな大きなヒトガタの魔獣。以前聖学でも戦った、タフで超攻撃力の魔獣。
以前戦ったのはおよそ三十メートルという巨体だったが──今回はそれよりもずっと大きい。
五十メートルはあるだろう。下手をすれば聖学で戦った個体の倍のサイズがある。
『オオォオオォオオオォオオォオオォォォオオオオォォォォ!!』
「ッつ!」
頭が割れるのではないかと思わせる程の大咆哮。近くの建物の窓が割れ、先程のまでの戦闘で崩れかかっていた建物はあっさりと崩れた。
そしてギガースが、思い切り拳を地面に叩きつけ、僅かに遅れて俺たちの所にまで振動が響く。
「!!」
ギガースからかなり離れた位置だと言うのに、容赦ない揺れが俺達を震わせ、ただ立つ事すらままならない。
「なんだありゃ…」
思わずそう言うと、妙なことに気づいた。
ギガースの拳が血にまみれている。
あの超巨大サイズのギガースの拳が血に濡れているではなく「塗れている」。そう思わせるような量の血。一人や二人では到底足りない。その十倍二十倍の数が要る。
それでもギガースは拳を振り下ろし続け、その度により拳に血を纏わせていく。
──まさか。
あのギガースは味方?だとしたら能力が分かっていないチィズの能力?
そう思った瞬間、シャルが言葉を漏らした。
『《腐死者》の……アンデッド?』
直後、まるで子供が砂山を崩すように、ギガースが地面を手で横に薙ぎ払った。
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