大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

包囲と魔法

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四方八方、三百六十度。どこかに視線をやれば、必ず目玉が視界に入るような状況、加えて本当に数は少ないのか、一体どこから湧くのかという疑問しかない量の魔族が正面に現れる。
咄嗟に振り返り後方を確認すると、まだ追っ手は追いついていない。《勇者》とアーネが頷き、アーネが無言で一本指を立てた。
「ッ!シャル、お前の技を借りるぞ!」
『あ?』
負傷した右腕からぼたぼたと血が滴り、足元で血だまりを作る。
その血が端から消えて行き、遂には今この瞬間滴っている血でさえも落下中に消える。
しかしそれは消滅したのでは無く、ただ形を変えただけ。
液体であった血が霧散し、ただ赤い霧となっただけ。
それはごく稀に《勇者》が番号をつけた血界とは別に、個人が編み出すことのある血界の紛い物。
先程の俺が繰り出した、血界とも呼べない血の爆散と根本では似てありながら、もっと長い時間をかけてその《勇者》が自己流に「技」として定義し、名を与えた我流の血界。
「血界《血霧けつむ》──起動」
それは仕組みとしてはごく単純。
超広範囲に及ぶ血の散布。分かりやすくイメージさせるなら、俺のコントロール下にある薄い血を辺り一面に撒いたのと同じ。
ただし、ペンキをぶちまけたような一面の撒き方ではなく、血は俺を中心に半球状のドームのように広げられる。
「っ、遮断…!」
外側に血を集め、膜のようにして視界を遮る。たったそれだけの動作なのに、思った以上に血を持っていかれる。消耗激しすぎだろこれ。
しかも所詮は血による煙幕。形を変えようと、物理的な防御力など無いに等しく、触れて手で破る事すら容易い。
だがしかし、仮にもこれは《勇者》の血界。
血霧の内側に入った目玉は魔法を遮断され、次々地面に落下する。
と言っても魔族も止まりはしない。血霧によって目が遮断されたと知ると、即座に生身で突っ込んできた。
『!?』
「迷いもなしかよ…!」
仮にも《勇者》だぞ。怯えも何も無く真っ直ぐ突っ込んでくるなんざ正気とは思えない。
だがしかし、これが《魔王》の影響なのか。
「頼む!」
「言われずとも」
俺は今、血霧の維持で手が離せない。コントロールが難しいと言うより、維持し続けることが難しい。こんなものを張りながら長時間の戦闘など俺は出来ない。正しくシャルは「相性が良かった」のだろう。
だがそれでも、維持に集中出来るのなら暫くは持たせられる。
魔族が血界の中へ突入し、それを《勇者》が相手取り、俺が必死に血界の維持。
そしてアーネが、俺の血界を吹き飛ばしかねないような魔力を練り始める。
アーネの周りだけ血霧を出来る限り薄くして、魔法の邪魔にならないようにコントロール。ついでに敵に勘づかれないよう、外から見れば魔力があまり使われていないようにカモフラージュ。
ここまでの流れで十秒弱。
「行けるか?」
「もちろんですわ」
そのセリフを聞き、血霧を解除。
瞬間、溢れるのは血霧で誤魔化していた濃密過ぎる魔力。
「今度は虚仮威しじゃありませんわよ?」
ぬぅ、と現れるのは《炎竜の顎ドラゴ・バイト》と同じ炎の竜の頭。
それが大きく息を吸い、口を開いた。
「引け!」
《勇者》に向けてそう言った次の瞬間、アーネの魔法が本気を見せた。
「《炎竜の熱息ドラグーン・ブレイズ》」
光が一直線に伸び、そして一瞬の間を空けて炎が走った。
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