大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

魔力と脱出

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一度剣を振り下ろすたびに、尋常ではない量の魔力が小さな石から全方位に向けて吹き出す。
あまりに濃密なそれは緋眼に映った瞬間、ドス黒い靄のように広がり、石を視界から掻き消すほど。
常人ならば、濃すぎるこの魔力にやられて身体の不調を訴えてもおかしくない。第四血界を発動して、魔力をある程度吸い上げているというのに、正直俺も頭が痛くなってきた。
だがその甲斐はあったようで、吹き出た魔力に反応して、壁や床の紋様が輝き始めた。
すると、さほど時間を空けずに膝や腰に軽い負荷がかかる感覚。
『持ち直した…か?』
中から外の様子はまるで分からない。分かるとしたら、マキナがカウントしているであろう時間ぐらい。
約五分、俺はこの気が狂いそうなほど濃い魔力の中で、一心不乱に剣を振り続けて魔力出させ続けるしかない。
「っ…」
正直キツい。身体が持たない。物理的なダメージは無いが、精神的な疲労がただ着々と溜まっていく。
どのぐらい剣を振っていたかなどはすぐに頭から消し去り、ただただ無心で剣を振って石へ刺激を与えるだけの思考へと切り替える。
何も考えず、故に何も精神的にダメージは入らない。
そうしていると──不意に誰か手首を掴まれた。
「!?」
アーネか?それとも《勇者》か?そう思って掴まれた右手側の方を見ながら、顔を僅かに上げる。
そこには、黒い覆面を被った顔が──いや違う。ドス黒い魔力がそのままヒトの形をとって、俺の手首を掴んでいるのだ。
「なん──」
見た瞬間分かった。これに実体はほとんど無い。輪郭もかなり朧気で、俺の手首を握る手だけがやたらとしっかりとしている。
サイズも小さい。それが俺を下から見上げた。
「お前──」
言い切る前に、すぅ、と影が消え、そのまま壁に吸い込まれる。
『五分です』
「ッ、分かった!」
即座に石を箱の中に入れ直し、再び封をして穴から脱出。ついでに血鎧でチャージしたエネルギーを適当に解放して床を蹴り砕きながら出る。
しかしあれだけ斬り続けたのに、石にはどうも傷一つついておらず、やはり破壊は相当難しいようだ。
「だ、大丈夫ですの!?大量の魔力が出てましたけれど!?」
「…大丈夫だ。ちょい気分悪ぃぐらい。もう近いんだよな?」
「あぁ、感じるだろ。紋から《魔王》の気配が」
正直に言うと、先程まで高密度の魔力に当たっていたのでそれどころじゃない。だというのに、右手首に刻まれたあの痣が教えている。
《魔王》がすぐ近くにいると。
「で、どうやって脱出すんだ?」
《勇者》がそう聞く。
「とりあえず走れ。外縁辺りまでな……で、やる事は単純。飛び降りるだけだ。マキナを傘にしてな」
一度やった方法だが、まさか二度もやるとは思ってなかった。正直御免被りたかったが。
「…大丈夫なのか?」
「元々脱出の事は書いてなかったんだよ。ありゃ捨て身の作戦だった」
肩を竦めつつ言うと、《勇者》が呆れて鼻で笑った。
「よくそんなモン使う気になったな」
「作戦書にゃ脱出方法が書いてないだけで、死ねとは一つも書いてなかったからな」
何とか端まで到着。見下ろせば、進路方向にひとつ大きな塔が立っており、それを取り囲むように明かりがいくつも見える。あれが魔族の最後の都市、陽光楽園か…
「ある程度近づいたら飛び降りるぞ。お前は適当に背中に掴まってろ」
「…差別じゃね?」
「区別だ。首絞めんなよ」
アーネを抱えつつ《勇者》にそう言う。腕力的にこちらの方がいいだろう。一応マキナを利用して小さい椅子も作るし。
「………じゃ、行くか」
そう言って、ひょいと。
俺達は空から地上へと飛び降りた。
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