大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

終了と言い訳

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さて。
戦えるようにしてやるよ、とは言ったものの、この状態じゃ不味い。
具体的に言うと、十年ちょいぐらい前、ナナキにみっちりしごかれた俺の時と大差ないぐらいにヤバい。
という訳で。
「アーネ、もういいぞ」
パチン、と指を鳴らすと木の裏からアーネがややふらつきながら走ってくる。
「あ、あなたに言いたい事は山ほどありますけれど、聖女様は、だ、大丈夫ですの!?」
「大丈夫大丈夫。………多分な」
武装を解除しながら適当な事をそう言っておき、アーネの背中越しに、サッと聖女サマの様子を見てみる。
今までの手加減は一切なく、急所だろうが顔だろうが関係なく(鎧付きで)殴ったため、今までの怪我などよりも酷い箇所が多い。
しかし、一応避けようとした成果はあったようだ。
幾つかまともに急所に刺さったものもあったが、その半分ぐらいは微妙にズラされていた。
つまり、急所にまともに刺さっていなかった攻撃もそれなりにあったと言うことで。
多少なりとも軽くはなっている。まぁ、重傷であるのに変わりはないのだが。
聖女サマの身体をアーネが放った回復の柔らかな光が包み込み、見る見る間に血が止まり、傷が塞がり、骨が繋がる。
「…終わりましたわ」
「…ホント、羨ましいもんだな」
俺があんな大怪我をすれば、少なくとも何日かは寝込んでなきゃいけないような怪我も、こんなに早く治せるとは…。
「で、」
アーネが振り向きざまに俺の胸ぐらを掴み、顔を近づける。
「ちょっ」
「なんで、あんな事をしたんですの?」
ギリギリと首を締めるようにして、鬼の形相をしたアーネはそう聞く。
そうなると当然。
「くるじぃ…話すから、いっかいてをはなせ…」
身長差的にそんな事をすれば俺の首が締まる。
で、首が締まれば喋れないのも当然で。
アーネの手をタップしていると、即座に胸の辺りの力が無くなり、地面に尻を打ち付けた。
「痛っ」
アーネを見上げてみると「オラ、話せやあぁん?」と言ったニュアンスの視線が返ってきた。
俺は溜め息を一つ吐き、そのまま座って話し始めた。
「戦士と魔法使い…前衛と後衛の一番大きな差、って何か分かるか?」
「…いきなりなんですの?飛び道具かどうか、ぐらいですの?」
アーネが不思議そうに言うが、大切なことだ。
「半分正解。答えは、臆病者チキンかどうか、って話だ」
そう言うと、アーネは鬼のような面をさらに歪ませ、俺を視線で殺そうとしてきた。
後衛私達が臆病者だと、そう批難したい訳ですの?」
「いや、違うさ。なぜそう言われるのかって言うとな?前衛は常に痛みと隣り合わせ、死と隣り合わせなんだよ。後衛だってそうかもしれないが、目の前で振られる剣や斧、それを自分の身体で押し留め、さらに歯を食いしばって相手の首に剣を叩き込む。それが前衛だ。さらに詳しく言ってやってもいいが、面倒なんで省くぞ?」
「……まぁ、わかりましたわ。それで、それが今回の尚更酷いリンチと何の関係があるんですの?」
「聖女サマが望んでいたのは、後衛としての戦い方じゃなくて、前衛としての戦い方だったからな。だから基礎の基礎をやらせてもらった」
「…昨日までの方法でもやりすぎでしたのに?」
「それでも足りないと思ったからやったんだよ。…聖女サマが起きたら呼んでくれ。それまでちょっと、部屋で休んでる」
口から出任せを言って俺は、その場からそそくさと立ち去り、部屋に入ってベッドに飛び込んだ。
「………おかあさん?」
「…悪ぃ、シエル。ちょっと休ませてくれ」
シエルが俺の事を気にかけてくれていたが、それに構うことすら出来ず、俺は自己嫌悪の沼に落ちていった。
後衛は臆病者?
馬鹿言え、臆病者は俺だろ。
布団を頭から被ってふて寝した。
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