大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

肉塊と空中都市3

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二本目は若干斜めの縦振り。それは初撃と同じく音を裂いてこちらへ一直線に振り抜かれる。
「チイィ!!」
再度《血瞬》を発動して移動。同時に跳躍し、剣で触手を切る。
しかし密度を上げたのか、完全な切断には至らない。咄嗟に横に蹴り飛ばす事でそれに対処するが、代わりに足場としていた建物が崩れる。
「クッソ!」
衝撃で浮いた瓦礫を蹴飛ばし、自由落下するアーネを抱えて地上へ。一拍遅れて《勇者》も着地する。
「大丈夫か!?」
「なんとか大丈夫ですわ!」
「距離があると埒が明かねぇ!突っ込む!」
《勇者》がそう言って駆け出した。
「どのぐらいの距離が一番いい?」
「五十メートルあたりですわね。それなら貴方も私を守ってくれるでしょう?」
「オーケー、任せるし任された」
アーネを抱えて走り出す。
一回目の鞭でかなりの建物がへし折られ、その結果一部相当見晴らしのいいエリアが出来た。建物の間を縫って接近するのもいいが、建物ごと破壊できる相手に対しては視覚を遮られた状態で先程の鞭を振られるとどうしようもない。ならばいっそ見られても、見える方がいい。
何も言わずにこの辺りかとアーネを下ろし、先に出ていった《勇者》の後を追う。
「おああおあああああああああああお!!」
「うるせぇ!!」
彼女が持っている長剣をベースに巨大な血刃を発動した状態で斬りかかり、狭間の子が再度野太い咆哮を上げる。
「いってぇ!」
「気をつけろよ!鼓膜破けんぞ!」
そう言って俺も突撃。少量の血を剣の表面に這わせ、血刃を形成しつつ俺の間合いまで近づく。
「ッ!!」
数回切りつけ、一度ステップを踏んで回避。しかし双剣ではこの巨体に対して、大したダメージにはなり得ない。
朝から晩まで戦えば終わるかもしれない。だが今はその時間が惜しい。
一秒経つ事に、背中とは違う場所から強い気配を感じる。
右手首。最近はある事すら忘れかけるが、《魔王》が俺につけた黒の痣。
そこからゆっくりゆっくりと悪寒が身体を這い登ってくる嫌な感覚。
十五分。直感的にその数字が脳裏を過る。
これでは何もかもが間に合わない。
「おあああああ!!おおおああああああああああ!!」
「うるせぇつってんだろ!」
マキナの耳栓をしていてもそれを貫くような大咆哮。暴れるわけでもなく、ただただ咆哮を辺りに散らすだけ。
その咆哮を無視し、大銀剣に変更。思い切り斬りかかり続ける。
「あああああああああ!!「ああああああ!!「ああああああ!!」」」
気色の悪い口がそれぞれ別々に動き、同じ悲鳴を上げ続ける。位置的に見えないが、おそらく《勇者》もどこかしらで斬り続けているのだろう。
狭間の子に関してはひたすら血界でダメージを与える以外にちゃんとした討伐方法は無い。ここにシステナでもいれば魔法で一発だったのかもしれないが、俺達は元々化物を倒す事を得手としている訳では無い。
だがしかし、やらねばならない時と言うのは今までにいくらでもあった。
「あああああああ!!「ああああああ!!「あああああああああ!!「ああああああああ!!」」」」
触手が振り上げられ、狭間の子の巨躯が暴れ回る。
瞬間、炎が的確に身体の真芯を捕らえ、その身体の中心に大穴を穿つ。
「あ……あぁ…お、おあああああ…おあああああああああ!!」
一瞬だけ狭間の子の動きが止まったが、即座に穴は埋まり、再度咆哮を上げ続ける。
その咆哮の中でも、彼女の声は不思議とよく聞こえた。
『なぁ…レィア』
「あ?」
『これ、不味いかもしんねぇ』
「あぁ?」
「あああああああああ!!「あああああああああ!!「ああああああああああああああああああ!!」」」
『成るかも』
「な…?」
直後、ぴたりと狭間の子が吼えるのをやめた。
「!?」
『不味い!殺れ!』
殺れと言われても、このサイズの狭間の子を倒す手段は無い。
それでもできる手段精一杯、辺りに散った血を吸い上げ、大銀剣に注いで一瞬だけ血刃を超強化。十メートルを優に超える巨大な血刃を形成し、思い切り横に薙いだ。
「っ、ラァ!!」
しかし。
今まであった肉を斬る手応えはまるでなく、代わりにあったのは灰の山を斬ったような妙な手応え。
「!?」
そして同時に斬った肉塊がサラサラと灰になり、消え去っていく。
「何が──」
言い終わる前に気づく。
背中の悪寒がむしろ増している事に。
「ッッッ!!」
咄嗟に血鎖を発動。消えゆく灰の山に向かって叩き込むと、メシり、という有り得ない音がした。
「なんっ!?」
手応えでわかる。
血鎖が中の何かを潰したのではない。
中の何かが血鎖を潰したのだと。
それが理解出来た瞬間、その何かが飛び出して来た。
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