大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

魔力と出処

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「──つまり何だ?要約すると、魔力を貯えるタンク的なものが無いと?」
アーネが再び地下へと下っていき、およそ二分というごく短い時間でメッセージを送ってきた。
『そういう事になりますわね。常にこの都市の中、くり抜いた地中を血のように走り巡っているみたいで、どこかしら一箇所に集中させている訳では無いみたいですわ』
「………範囲は?」
『この都市全域。誇張等なしで隅々まで広げられてますわね』
不味い。範囲が広すぎる。
強引に大元の魔力を俺と《勇者》の血腕で握り潰して無かったことにするつもりだったのだが、そのアテが外れた。
「なら、都市から魔力を流用して、何かの魔法に使えるか?」
『多少は出来ますけれど…こんな膨大な魔力、いくら私でも受けきれませんわよ』
「…だよな」
魔石などの魔力を使って魔法を作る場合、一度身体に魔力を取り込んでから個人が使う魔力の色に染め直す必要がある。
それに、魔法を使う際は体内を通して魔力を外に出す必要がある。そのため一個人が一度に使える魔力に限りがあり、無理をすれば魔力が身体の中で弾ける。普通なら自身の魔力までしか使わないのであまり要らない知識なのだが。
複数回に分けて撃つにしても、限界スレスレで撃ち続けるのは身体への負担も大きい。先程アーネは大きな魔法を放ったばかりなのだから、あまり無茶はさせたくない。
元々の作戦書も、進路を弄って陽光楽園へ直に突っ込ませる予定だったらしく、これ以上詳細なルートも無い。
どうする。
「で?女はなんだって?」
《勇者》が気だるそうに聞く。
「共有してたはずだが…聞いてなかったのか?」
「周りを警戒してたんだ。一応な」
追加で来た魔族もかなり弱い部類な上、数も少なかった。
つまりこの都市で戦える者もほとんどいなくなったようで、《勇者》としては暇になったらしい。
「魔力を潰しきれねぇって話だ。このままだと《魔王》に利用される可能性がある」
「倒しゃいいだろ。《魔王》を。《勇者》が二人も居るんだ。大抵の事はなんとかなる」
《勇者》はあっさりそう言ってのけた。
「仮にも魔族の切り札だぞ。ヒトや機人とは違う、素のスペックの時点で化け物の魔族の特殊ユニットだ。そんなのが相手だってんなら、正直《勇者》が二人でも怪しいと思うぜ」
「…じゃあどうすんだ。魔力を潰す事も使い切ることも出来やしねぇんだろ?」
「だから考えてんだろ」
いや、そもそもの話、下手に魔法陣とか魔力のタンクを攻撃しても魔力の行き先が無くなって不味いんだしこの話そのものが良くないか。
ならどうする。やはり魔法で消費するのが一番か。
しかし俺も《勇者》も魔法は使えない。唯一使えるアーネに任せても、この量を使い切れというのは正直無理がある。
何かいい方法、いい方法は無いのか。
血界…鎧に取り込むのはどうだ。いや、容量が足りない。範囲も広すぎて血腕でも潰しきれない。なら魔法か。しかし根本的に魔法ではなくその仕組みとして限界がある。減らせたとしても当然足りない。俺の戦技アーツも当然論外。どうしようもない。魔法を斬る事は出来ても、魔力そのものをどうにかする事は出来ない。
クソ、どうすればこの都市の魔力を枯渇させられる?
侵入時にあれだけの魔法を放っておきながら余裕綽々のこの都市の魔力を根こそぎ奪える?
「──ん?」
ふとそこで気づいた。
あれだけの魔法を放ってしかもずっと飛んでいるのに、魔力の量は減っていたりしないのだろうか。
「なぁアーネ、魔力蓄えてられてないんだろ?なら魔力って減ってないのか?」
『減ってませんわね。隅々まで行き届いて潤ってますわ』
何故?あんな大規模な魔法をぶっぱしてたのに。高度をとるために相当量魔力を使っていたはずなのに。
いや、そもそもこの魔力はどこから来ている?何を源とした魔力だ?
そして《魔王》に必要な、俺が持つ石というものについてふと思い出す。アレ自体は魔力を蓄えられないが、魔力を無限に放つ。
そして過去にシャルの時代、《魔王》はいた。にも関わらずシャルやヤツキ自身は俺が拾った石に関して無知だった。つまり見たことがなかったということだ。
ならその時代の石はどこだ?
「アーネ、魔力の出処探ってくれ。大至急だ」
もしかしたら。そう祈りながら俺は言った。
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