大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

失せ物と勇者

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全く酷い目にあった。
二人を無理やり追い返し、ぶっ壊された扉をどうにか直し、セラの義手の大まかな形が出来てきて一息ついていると、放送が流れた。
案の定というべきか、波乱も何も無くアーネがそのまま勝ち残り、二つ名となるらしい。後でおめでとうの一言ぐらい言うか。
さて、争奪戦が終わったならまず最優先でやらなくてはならないのはセラの義手の回収。外側の破片程度はどうでもいいが、中には魔獣を素材にした武器が入っていた。あの程度の爆発ではせいぜい少し歪む程度なので、どうにか探して再利用したい。
外はまだ辛うじて日が落ちてない。暗くなると回収も困難だし、早めに終わらせたい。
「マキナ、どっちの方に飛んでったか覚えてるか?」
『第一訓練所の爆破地点より、南西に向かって飛んでいく銀の光を確認しました』
「了解。…ところで、どこまで飛んでいったかの試算って出来るか?」
『不可能です』
「ま、そうだわな」
聞きはしたが、ハナから期待はしてない。方角が分かっただけでも御の字だ。
というわけで訓練所に向かう足を少々軌道修正。緋眼とマキナの捜索を全力で使ってセラの腕に仕込んでいた斧のパーツを探す。
何故こんなに壊れた腕のパーツに執着するのか。
理由は至極単純。あの素材が非常に珍しい素材で替えがそう効かないからだ。
今の手持ちでもどうにか出来なくはない。出来なくはないが、非常に手間がかかる。やっと義手に馴染んできてリミッターも外してきたのに、いきなり腕を新しいものに替えられて武器も変わってとなると、セラもかなり難儀するだろう。せめて武装面ぐらいはマシにしてやりたい。
余談だが、左腕に隠されていた切り札のパーツも結構いいモノを使っている。しかしそもそも使い捨てなので今回の爆破で諸々諦めている。
と言ってもこのクソ広い荒野の中、緋眼とマキナの目があっても中々見つからない。
『日も落ちてきた。今日は諦めとけ』
「そうだな…けどその前に」
ふいと視線を横に向ける。
「ずっと見てたけど何なんだ?」
「別に。何やってんだと思って見てただけだよ」
と《勇者》が答える。
「ま、用があったのに英雄に邪魔されたから今改めて来ただけなんだが。周りには誰も…あぁ、誰もいないし」
「用?お前が?俺に?なんの?正直声を聞くのも嫌だからとっとと離れて欲しいんだが」
「俺も嫌いだよ。けど感情より実利をとる。それが《勇者》だろ?」
正しい。ひとつ細かい間違を上げるとしたら、俺は《勇者》では無い何かだという点ぐらい。
溜息をつき、話を聞いてやると手で合図する。
「とりあえず今回の作戦の件だ。俺とお前で組む。文句は?」
「無い。癪だがそれが一番だ」
過去に類を見ない二人の《勇者》。互いに力を隠す必要も無く戦えるというのは非常に大きい。
「次、メッセージ用にお前の魔導具の一部貸してくれ。使い方は《亡霊》から何となく聞いた」
「チッ、余計なことを…仕方ねぇな」
小指の爪先程度にマキナをちぎって寄越す。
「この状態でタンク機能は使えるのか?」
「一応使えるが使わせねぇ。俺が使ってる」
「貸せよお兄ちゃん」
「貸すかよクソが」
つかなんで俺が兄…あぁまぁ、血脈的にそういう立ち位置か?でも俺厳密には《勇者》じゃないんだが。
「ケチめ。まぁいい。最後に確認だが、お前も考えることは同じって事でいいか?」
「………この前、五十年前の軍が考えた空中都市撃墜作戦の作戦書を手に入れた。それを参考にする予定だ」
「後で共有してくれ。今手元にないだろ」
「仕方ねぇな…」
舌打ちながら分かったと答える。
「それとひとつ、これは興味本位なんだが」
「あ?」
《勇者》がそう言って俺に聞く。
「アンタって俺の事どのぐらい嫌い?」
「神の次に嫌い」
俺が即答すると、《勇者》は少し驚いたような顔をする。
「どうした」
「いや、なんでもない」
そう言った《勇者》の顔は、丁度日が落ちた瞬間で見えなかった。
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