大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

森と耳長種

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機人敗戦時、グルーマルは機人達にこう聞いたらしい。
ヒトと交わるか否か。
機人達は即座に首を横に振り、グルーマルはそれらの姿をその場で別のものに変えた。
一人一人じわじわと、つま先から別のものへ。
龍人種ドラゴニアンはその魔力と強靭な身体を元に魔力を持つ石や特殊な金属に。
槌人種ドワーフもまた金属や宝石に。
巨人種ジャイアントはその巨躯の全てを土へと還し、山となった。
妖精種フェアリーはそのまま固体としての身体を消され、幻影を生み出す霧として海上へ。
そして耳長種エルフは決して枯れる事の無い樹木に。
「結局、そうまでしてヒトの側に寝返ったのは大体一種族二、三人。獣人種ビーストマンだけは例外で、十人以上いたっけな。それでもグルーマルからしたらそれで十分過ぎた訳だ」
「なるほどな。でもヤツキ、ひとつ聞きたい。既にそれは五十年以上前に終わった事だろう?ここにある木は全部ただの木だ。そりゃ確かに勝手に生えるっていう変な性質はあるが、結局は植物。それと今のユーリアに何か関係があるのか?」
ユーリアを再度寝かせ、何かあったら即座に動けるよう、ベッドの傍に椅子を二つ持ってきて座って話す。
「あるさ。木があるって事は生きてるって事だ」
「うん?うん。それが?」
「だから耳長種エルフが生きてるんだよ。今もずっと、五十年以上前から、木になった時からずっと意識がある」
「…うん?」
「他の種族についてはどうか知らん。恐らく意識があるのはせいぜい海上をさ迷ってる妖精種フェアリーぐらいだろうが、間違いなくここの木々は意識がある」
ヤツキがそう断言した。
「ちょっと待て。木だろ?目も耳も触覚もない。魔力もないし脳味噌だってないのに何でそんな?」
そう言うと、彼女はなんとも言えない表情で話した。
「戦時中、一番苦しめられたのは耳長種エルフが作り出した数多の武装だった。それがグルーマルは気に食わなかったんだろうな」
「そんな理由で?」
思わずそう言うと、ヤツキが「驚くか?」と聞いた。
「奴はそういう奴だ。ガキで世界の中心が自分だと思ってて、気に食わないとすぐにキレて八つ当たりをする。全く面倒な神だよ」
溜息をついて、ヤツキは話を続けた。
「意識はあるし、全部見えてるし、音も聞こえる。魔力は元から無いし、脳味噌は無いが思考は出来る。要は本当に姿形を木に変えられただけ。退屈で死にそうになるが、絶対に死なない木の身体を与えられたからどうしようもない。そういう嫌がらせの結果出来たのがこの森だ」
「くっだらねぇ…」
思わずそんな言葉が口をついた。
なんというしょうもない理由で作られたのか。この森は。
「で、ユーリアがこうなった理由は?」
「多分何かの拍子に心が緩んだんだろうな。寝てるタイミングで、周りの耳長種エルフが接触して来たんだろう。で、勇者の事を口々に吹き込んだ。緋眼にも反応してたしな」
理屈としては《亡霊》と似たようなモンだ。と言って、面倒臭そうに鼻から息を抜くような溜息をする。
こういう時のナナキは相当イライラが溜まっていた。ヤツキも多分同じだろう。
「今は錯乱していたし耳長種エルフも近寄れないだろう。一旦は安心しておけ。後でお前が適当に誤魔化しておけば、本人が嫌がっている以上勝手に記憶は風化するだろう」
「勇者の情報が漏れたことはいいのか?」
そう言うと、ヤツキは小首を傾げてこう聞いてきた。
「殺して埋めるのが一番手っ取り早いが。やるか?」
「…いや、いい。そうか」
逆に言えば、それぐらいしか対処法がないと言う事か。下手に触れば思い出すだろうし、黙って流す事が吉だと。
多分ユーリアの父親はこうなると分かっていたんだろうな。学校長のは多分普通に聖学の守りが薄くなるからだろうが。
ここまで話して、俺は静かに立った。
「もう行くのか?」
「少しでも離れた方がいいだろう?」
「その通りだが」
「鍵、サンキューな」
そう言って部屋を出て地下室へ向かう。目当ての物を集めて早めに森を出るとしよう。
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