大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

肉塊と勇者2

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「第二血界《血呪》、解放」
ぼそり、とそう呟く。
俺達にしか聞こえないように。
瞬間、身体を駆け巡る黒い紋様。
同時に感じるのは、全身が強く補強された状態に書き換えられる感覚。
『無茶、すんなよ』
「無茶しなきゃどうしようもないだろ」
床を、蹴る。
音すら置き去りにして、床を踏み砕きながら、さながら一つの──流星のように。
空いていた距離を一瞬で詰め、狙うのは神父の首。
「──ハァッ!!」
「おや、私を狙いますか」
しかし──ぼっ、と。
割り込んできた肉塊の頭が消し飛んだ。
そしてそのまま、頭を失った肉塊はその場に崩れ落ちた。
「狙いはいいですね。もっとも、対策はしっかりしてあるのですが」
「チッ!!」
今の失敗は大きい。
油断していた神父への奇襲という、最高の一撃を失敗したのだ。これ程の痛手もなかなかない。
しかも──。

音すら置去りにした俺の姿を視認し、明らかに届かない距離にいた肉塊を強引に
俺ですら、緋眼がなけりゃ視認出来るかどうか怪しいような高速移動を、たかが神父が見切っていた?
どんな目ェしてやがんだ。
しかも、俺が怯んでいた隙に残る十一体の肉塊が寄ってきて、俺達を囲むようになり、さらに身体を屈め、獲物に飛びかかる寸前の獣のような体勢になる。
「クソ…!」
タイミングは一瞬。
いつでも動ける様、足に力を込めつつ、神父が何かしないか注意をそちらにも割く。
敵が飛びかかる瞬間を見極めて──今ッ!!
「「「「おぉおぉおぉおぉおぉおぉあぁあぁあぁあぁあぁ!!」」」」
肉塊達が飛びかかった瞬間、俺は銀の尾を引いて真上に飛び上がる。
跳躍は成功。
銀腕で天井を掴む。
眼下には頭をぶつけ合い、目標である俺を見失った肉塊共がウロウロと──。
「……?」
馬鹿みたいに高い天井は、高さ約二十メートル程か。しがみついて初めて気づいたが、滅茶苦茶高いな。
だが、そんな事を気にしている場合ではない。
肉塊共はどうやら、俺を狙って飛びかかったのでは無かったらしい。

緋眼によって強化された視力は、それを捉えた。
「あれは──?」
距離があるため、音までは聞こえないが恐らく、ミチミチ、ブチッ、という音がここまで聞こえそうな、そんな食べ方だった。
そして肉塊共はわずか数秒で全て食べ終えると、こちらを視た。
目が無いはずなのに、確実に、正確に。
十一対のあるはずの無い目を肌で感じた瞬間。
肉塊共が、跳躍した。
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