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本編
名持ちと激突7
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いくら満身創痍とはいえ、普通にやってユーリアが十秒やそこいらでやられる訳が無い。
彼女は剣の天才であり、優秀な魔法使いでもある。どんな手段を取られても何かしらの反応はできるはず。
それすら許されない超スピードの攻撃?いや、先程のカメレオンの動きについて行った彼女が、そう易々とやられるとは思えない。
では不可視での一撃や超リーチの一撃?有り得なくもない。だがひっかかる。
彼女は場外へ押しやられた後、珍しく口汚く文句を言い、そして絶叫していた。
魔力も減っていたとはいえ残っていた。それだけの元気があるなら、必ずユーリアは魔法で復帰していたはず。
ダウンして場外ではなく、意識があったにもかかわらず復帰出来なかった。
何故?
「ま、その辺は追々だな」
癒し手のヒトの補佐達がユーリアを保護して連れて行こうとするが、彼女は自力で立ってフィールドを後にする。多少歩き方がぎこちないが、立って歩ける程度には元気らしい。
ふむ、やはり妙だな。
「んじゃ行ってくるわ。何か知らんが熱烈なラブレターも貰ってるし、向こうもこっち見てるっぽいし。いいよな?」
じぃっ、と。フィールドからこちらを見つめ続けるクロコダイル。出来るだけ視線が合わないように逸らしているのだが、明らかにこちらを見ているのはよく分かる。
「行ってこい。奴の能力がまるでわからん以上気抜くなよ」
「…驚いた」
「何がだ」
「まさかアンタから俺の身を案じるような言葉を聞けるなんてな」
そう言うと、彼女はキョトンとした顔をして、その後誤魔化すように「いいから行け」と突き放す。
「はいはい、んじゃ《緋眼騎士》、行ってきまーす」
日陰の控えエリアから太陽の照らすフィールドエリアへ足を踏み出す。
俺の姿を確認した会場スタッフが、俺の顔と二つ名をモニターに映す。
元から用意してあったのだろうが、ふとした時に取られた顔だからか、一際女らしく見える顔で我ながら嫌になる。
「アンタが《緋眼騎士》?話に聞いてたよりずっと細いし弱そうね」
「お前が《クロコダイル》か?手紙よりずっととち狂ってて可愛らしい見た目だな」
「あんまり面白くないわ」
「だろうな。俺もいまいちだと思った。で、俺にこの手紙送ったのはお前で合ってるんだよな」
と言って髪から手紙を出して見せると、クロコダイルは「ええそうよ」と認める。
「俺はアンタに会ったこともないと思うんだが。筆まめって奴なのか?俺じゃなくても送ってた?」
「いいえ、あなたと戦ってケチョンケチョンに潰してやりたいから送ったのよ」
「こりゃ驚いた。まさか顔も名前も知らない奴がファンについてたか。サイン書いてやろうか?宛名はなんて書いて欲しい?」
「要らないわよ。それより本当に覚えてない?」
「知らねぇなぁ。お前みたいなちんちくりん、見りゃ一発で思い出すだろうが」
つい一年ちょっと前まで森に籠りきりだったので、そもそも会ったヒトの数が少ない。街中ですれ違ったとかでない限りは覚えているつもりなのだが。
そう思っていると、クロコダイルが「顔見てもわかんないでしょ。名前よ名前」と言った。
「生憎ワニの知り合いもいねぇな。獣人種の知り合いも居ない」
「違うわよ。本名の方」
「あ?」
言われてもう一度モニターを見上げる。
そこには《鰐》の名の下に「アイナ・エデルネス」と書いてあった。
「ほー、アイナね。クロコダイルじゃなくてアイナちゃんって呼んだ方がいいか?」
「この名前見ても思い出さない?一年半前、聖学で入学してから一ヶ月と経たずに退学にさせられた男がいたでしょう?」
いたっけンなの。と言いかけたが、いや待て一ヶ月以内と言えばと思い出す。
確か俺の鎧を取りに行った時、とある馬鹿がナナキに喧嘩売って退学になってたはず。
「あぁ、そういや居たな。そっちで元気してる?」
そんで彼はその後西学に入って《鴉》とか名乗ってた気がする。彼がやった行いはまるで許す気がないが、だからといって不幸であれと祈るほど腐っていない。
「えぇ、元気よ。両腕と片足、あと声を無くしたけど」
「そりゃ何より。で、それが何か?」
「それが私の兄よ。《鴉》のヴォルテール・エデルネスがね」
そう言ってクロコダイルが突っ込んで来た。
彼女は剣の天才であり、優秀な魔法使いでもある。どんな手段を取られても何かしらの反応はできるはず。
それすら許されない超スピードの攻撃?いや、先程のカメレオンの動きについて行った彼女が、そう易々とやられるとは思えない。
では不可視での一撃や超リーチの一撃?有り得なくもない。だがひっかかる。
彼女は場外へ押しやられた後、珍しく口汚く文句を言い、そして絶叫していた。
魔力も減っていたとはいえ残っていた。それだけの元気があるなら、必ずユーリアは魔法で復帰していたはず。
ダウンして場外ではなく、意識があったにもかかわらず復帰出来なかった。
何故?
「ま、その辺は追々だな」
癒し手のヒトの補佐達がユーリアを保護して連れて行こうとするが、彼女は自力で立ってフィールドを後にする。多少歩き方がぎこちないが、立って歩ける程度には元気らしい。
ふむ、やはり妙だな。
「んじゃ行ってくるわ。何か知らんが熱烈なラブレターも貰ってるし、向こうもこっち見てるっぽいし。いいよな?」
じぃっ、と。フィールドからこちらを見つめ続けるクロコダイル。出来るだけ視線が合わないように逸らしているのだが、明らかにこちらを見ているのはよく分かる。
「行ってこい。奴の能力がまるでわからん以上気抜くなよ」
「…驚いた」
「何がだ」
「まさかアンタから俺の身を案じるような言葉を聞けるなんてな」
そう言うと、彼女はキョトンとした顔をして、その後誤魔化すように「いいから行け」と突き放す。
「はいはい、んじゃ《緋眼騎士》、行ってきまーす」
日陰の控えエリアから太陽の照らすフィールドエリアへ足を踏み出す。
俺の姿を確認した会場スタッフが、俺の顔と二つ名をモニターに映す。
元から用意してあったのだろうが、ふとした時に取られた顔だからか、一際女らしく見える顔で我ながら嫌になる。
「アンタが《緋眼騎士》?話に聞いてたよりずっと細いし弱そうね」
「お前が《クロコダイル》か?手紙よりずっととち狂ってて可愛らしい見た目だな」
「あんまり面白くないわ」
「だろうな。俺もいまいちだと思った。で、俺にこの手紙送ったのはお前で合ってるんだよな」
と言って髪から手紙を出して見せると、クロコダイルは「ええそうよ」と認める。
「俺はアンタに会ったこともないと思うんだが。筆まめって奴なのか?俺じゃなくても送ってた?」
「いいえ、あなたと戦ってケチョンケチョンに潰してやりたいから送ったのよ」
「こりゃ驚いた。まさか顔も名前も知らない奴がファンについてたか。サイン書いてやろうか?宛名はなんて書いて欲しい?」
「要らないわよ。それより本当に覚えてない?」
「知らねぇなぁ。お前みたいなちんちくりん、見りゃ一発で思い出すだろうが」
つい一年ちょっと前まで森に籠りきりだったので、そもそも会ったヒトの数が少ない。街中ですれ違ったとかでない限りは覚えているつもりなのだが。
そう思っていると、クロコダイルが「顔見てもわかんないでしょ。名前よ名前」と言った。
「生憎ワニの知り合いもいねぇな。獣人種の知り合いも居ない」
「違うわよ。本名の方」
「あ?」
言われてもう一度モニターを見上げる。
そこには《鰐》の名の下に「アイナ・エデルネス」と書いてあった。
「ほー、アイナね。クロコダイルじゃなくてアイナちゃんって呼んだ方がいいか?」
「この名前見ても思い出さない?一年半前、聖学で入学してから一ヶ月と経たずに退学にさせられた男がいたでしょう?」
いたっけンなの。と言いかけたが、いや待て一ヶ月以内と言えばと思い出す。
確か俺の鎧を取りに行った時、とある馬鹿がナナキに喧嘩売って退学になってたはず。
「あぁ、そういや居たな。そっちで元気してる?」
そんで彼はその後西学に入って《鴉》とか名乗ってた気がする。彼がやった行いはまるで許す気がないが、だからといって不幸であれと祈るほど腐っていない。
「えぇ、元気よ。両腕と片足、あと声を無くしたけど」
「そりゃ何より。で、それが何か?」
「それが私の兄よ。《鴉》のヴォルテール・エデルネスがね」
そう言ってクロコダイルが突っ込んで来た。
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