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本編
名持ちと激突6
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繰り出す拳、放たれる蹴り。稚拙とも言える程雑な攻撃だが、その全てが常人ならば反応すら許されない勢いで振り回される。
しかもカメレオンの動きが、明らかに先程の細い身体の時より早い。
早すぎて多少振り回されている節もあるが、それならばとカメレオンは振り回されるまま、嵐のように暴れ回る。
それをユーリアは、満身創痍ながらも四体のナイトを引き連れ、全て捌いていく。
攻撃が当たる瞬間、僅かに向きを逸らせた同種の力を添え、攻撃を逸らせる。
俺がよく腕力で敵わない相手に対して行う受け流しだが、当然教えた覚えはない。元々俺も勝手にシャルから見て盗んだ技だが、こんな短期間で習得出来ていただろうか。
だがナイトはユーリアが別々に制御している訳では無いらしく、行動が荒い。カメレオンの攻撃を受ける度に装甲が剥がれ、あるいは割れ、どんどん無惨な姿になっているのが俺には見える。
それをカメレオンも手応えで感じ取っているのか、さらに加速と膨張をしていく身体を震わせながら力を込めた。
「憤ッ!!」
乾いた殻が割れるような音が響き、ナイトが一体砕ける。
姿を見せることも、断末魔を上げることも無くナイトが風に消えて行き、ユーリアが僅かに眉を顰める。
だがそれだけだ。両者の間に言葉もなく、ユーリアは暴れ狂うカメレオンをどうにか抑え続ける。
「さて、このままだとユーリアはジリ貧な訳だが。なぁ《雷光》、お前どっち勝つと思う?」
「このタイミングで聞くか。《貴刃》に決まっているだろう」
考えるまでもなく《雷光》は即答した。
「その心は?」
「そう複雑な話でも無いし、貴様も分かっているから聞いたのだろう?手札を先に切り尽くした方が負けるからだ」
「やっぱ分かってたか。カメレオンつったら賭けしようぜって言うつもりだったんだが」
丁度そう言った時、二体目のナイトが砕け散った。
「大穴でカメレオンが勝つかもしれんぞ?賭けたらどうだ」
「馬鹿言うな。金を捨てる趣味はねぇよ」
三体目が砕け散る。
勝ちを確信したカメレオンが笑みを浮かべ、戦技を放つ。
「死ねええええええええええええええ!!」
身体を覆う赤黒い燐光はその殺意の表れか。思い切り振り抜かれた拳が最後のナイトを貫いてユーリアを潰しにかかる。
対してユーリアは、指を一度鳴らした。
彼女が発動したのは恐らく風の魔法。足から地面へ放たれたそれは、轟音と共にユーリアの身体を上空へと打ち上げさせた。
カメレオンからしたらさぞ驚いただろう。爆発にも似た音と共に標的の姿が突如消えたのだから。
辺りを見渡し、即座に上を見上げると、上から落ちてくるユーリア。
「本当に曲芸師みてぇだなお前はよォ!!」
カメレオンはそう言うと身体を捻り、下からすくい上げるような姿勢を取って、上から落ちてくるユーリアへのカウンターを用意する。
「《マキシマム──」
「《ブレイズソード》発動」
ユーリアの握る剣、その柄から魔法で構築された炎の刃が発生。一時的にリーチが俺の大剣程の長さへと拡張される。
「──ショッ」
「《ブルーム》」
さらにユーリアが魔法を重ねる。
その瞬間、フィールドから大量の植物が生え、カメレオンの身体を拘束し始める。
「なっ!?」
植物系の魔法は、必ず触媒となる植物の種が必要となる。種そのものはそこら辺のどこにでもあるものなので今回のルールに抵触しない。
だがいつ、どうやって硬いフィールドに埋めたのか。生えてきていた場所に一番心当たりがあるカメレオンがそれに気づいた。
「まさかっ、俺の踏んだ場所に種をっ!?」
そう、ユーリアはカメレオンが暴れ回るその足元に種を分からないように置き、カメレオンが踏みしめることで種が硬いフィールドに埋まったのだ。
そして動きが完全に停止した瞬間に植物を異常成長させ、カメレオンの動きを止めさせた。
さしものカメレオンも動きが完全に止まった所から膨大な量の植物を千切る事は困難らしい。
「戦技、《月牙》」
「また俺の戦技を…」
炎の大剣を縦に構えてそのまま振り下ろすシンプルな戦技。
それを植物に身動きを封じられたカメレオンが回避する手段はない。
炎の牙が一対、カメレオンの身体に食らいついた。
「があああああああああああああああッッッ!!」
肉の焦げる匂いと髪が燃える臭いが混じって凄まじい悪臭を放つ。
絶叫を上げながらカメレオンがのたうち回る。身体にやたらと火が回るのが早いが、もしかしたらよく燃える植物を選んで蒔いたのかもしれない。
だがそれでも。
「グゾッダレがあああああああああああああああああ!!」
それでもカメレオンは止まらない。
最後に一撃でも。その執念から拳を振り上げる。
そしてユーリアも止まっていない。
双剣から炎が消え、次は銀の長剣が輝きを放つ。
「繋げて戦技」
《月牙》を放って着地、膝をたわめて弾丸の如く身を丸め、さらに腕を交差。これだけでもうやることは決まっているだろう。
「《ハイ・スラッシュ》」
単純極まりない戦技。
突進と共に斬撃を繰り出すだけの極々平凡な戦技。
しかしその戦技は、ただの戦技に非ず。
戦技同士を繋いで強化された一段階上の戦技は、カメレオンの硬くて分厚い身体を貫き、彼の動きをピタリと止めた。
振り上げた拳が力なく振り落とされ、ユーリアが剣をゆっくりゆっくりと引き抜くと、堰き止めていた血が溢れ、そしてカメレオンが声もなく倒れ伏した。
しかもカメレオンの動きが、明らかに先程の細い身体の時より早い。
早すぎて多少振り回されている節もあるが、それならばとカメレオンは振り回されるまま、嵐のように暴れ回る。
それをユーリアは、満身創痍ながらも四体のナイトを引き連れ、全て捌いていく。
攻撃が当たる瞬間、僅かに向きを逸らせた同種の力を添え、攻撃を逸らせる。
俺がよく腕力で敵わない相手に対して行う受け流しだが、当然教えた覚えはない。元々俺も勝手にシャルから見て盗んだ技だが、こんな短期間で習得出来ていただろうか。
だがナイトはユーリアが別々に制御している訳では無いらしく、行動が荒い。カメレオンの攻撃を受ける度に装甲が剥がれ、あるいは割れ、どんどん無惨な姿になっているのが俺には見える。
それをカメレオンも手応えで感じ取っているのか、さらに加速と膨張をしていく身体を震わせながら力を込めた。
「憤ッ!!」
乾いた殻が割れるような音が響き、ナイトが一体砕ける。
姿を見せることも、断末魔を上げることも無くナイトが風に消えて行き、ユーリアが僅かに眉を顰める。
だがそれだけだ。両者の間に言葉もなく、ユーリアは暴れ狂うカメレオンをどうにか抑え続ける。
「さて、このままだとユーリアはジリ貧な訳だが。なぁ《雷光》、お前どっち勝つと思う?」
「このタイミングで聞くか。《貴刃》に決まっているだろう」
考えるまでもなく《雷光》は即答した。
「その心は?」
「そう複雑な話でも無いし、貴様も分かっているから聞いたのだろう?手札を先に切り尽くした方が負けるからだ」
「やっぱ分かってたか。カメレオンつったら賭けしようぜって言うつもりだったんだが」
丁度そう言った時、二体目のナイトが砕け散った。
「大穴でカメレオンが勝つかもしれんぞ?賭けたらどうだ」
「馬鹿言うな。金を捨てる趣味はねぇよ」
三体目が砕け散る。
勝ちを確信したカメレオンが笑みを浮かべ、戦技を放つ。
「死ねええええええええええええええ!!」
身体を覆う赤黒い燐光はその殺意の表れか。思い切り振り抜かれた拳が最後のナイトを貫いてユーリアを潰しにかかる。
対してユーリアは、指を一度鳴らした。
彼女が発動したのは恐らく風の魔法。足から地面へ放たれたそれは、轟音と共にユーリアの身体を上空へと打ち上げさせた。
カメレオンからしたらさぞ驚いただろう。爆発にも似た音と共に標的の姿が突如消えたのだから。
辺りを見渡し、即座に上を見上げると、上から落ちてくるユーリア。
「本当に曲芸師みてぇだなお前はよォ!!」
カメレオンはそう言うと身体を捻り、下からすくい上げるような姿勢を取って、上から落ちてくるユーリアへのカウンターを用意する。
「《マキシマム──」
「《ブレイズソード》発動」
ユーリアの握る剣、その柄から魔法で構築された炎の刃が発生。一時的にリーチが俺の大剣程の長さへと拡張される。
「──ショッ」
「《ブルーム》」
さらにユーリアが魔法を重ねる。
その瞬間、フィールドから大量の植物が生え、カメレオンの身体を拘束し始める。
「なっ!?」
植物系の魔法は、必ず触媒となる植物の種が必要となる。種そのものはそこら辺のどこにでもあるものなので今回のルールに抵触しない。
だがいつ、どうやって硬いフィールドに埋めたのか。生えてきていた場所に一番心当たりがあるカメレオンがそれに気づいた。
「まさかっ、俺の踏んだ場所に種をっ!?」
そう、ユーリアはカメレオンが暴れ回るその足元に種を分からないように置き、カメレオンが踏みしめることで種が硬いフィールドに埋まったのだ。
そして動きが完全に停止した瞬間に植物を異常成長させ、カメレオンの動きを止めさせた。
さしものカメレオンも動きが完全に止まった所から膨大な量の植物を千切る事は困難らしい。
「戦技、《月牙》」
「また俺の戦技を…」
炎の大剣を縦に構えてそのまま振り下ろすシンプルな戦技。
それを植物に身動きを封じられたカメレオンが回避する手段はない。
炎の牙が一対、カメレオンの身体に食らいついた。
「があああああああああああああああッッッ!!」
肉の焦げる匂いと髪が燃える臭いが混じって凄まじい悪臭を放つ。
絶叫を上げながらカメレオンがのたうち回る。身体にやたらと火が回るのが早いが、もしかしたらよく燃える植物を選んで蒔いたのかもしれない。
だがそれでも。
「グゾッダレがあああああああああああああああああ!!」
それでもカメレオンは止まらない。
最後に一撃でも。その執念から拳を振り上げる。
そしてユーリアも止まっていない。
双剣から炎が消え、次は銀の長剣が輝きを放つ。
「繋げて戦技」
《月牙》を放って着地、膝をたわめて弾丸の如く身を丸め、さらに腕を交差。これだけでもうやることは決まっているだろう。
「《ハイ・スラッシュ》」
単純極まりない戦技。
突進と共に斬撃を繰り出すだけの極々平凡な戦技。
しかしその戦技は、ただの戦技に非ず。
戦技同士を繋いで強化された一段階上の戦技は、カメレオンの硬くて分厚い身体を貫き、彼の動きをピタリと止めた。
振り上げた拳が力なく振り落とされ、ユーリアが剣をゆっくりゆっくりと引き抜くと、堰き止めていた血が溢れ、そしてカメレオンが声もなく倒れ伏した。
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