大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

聖女と説得

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「おい、起きろ」
揺すっても抓っても起きない聖女サマ。
十字架から降ろし、縄も切ったが、意識が戻らない。
多分、暴力の末に意識を失ったんだろう、殴られたらしき痕は既に青紫に変色し、見るだけで痛々しいと印象づける。
彼女を見て、守りきれなかった事に後悔やら不甲斐なさやらを感じている一方、服は所々破かれているものの、あくまで単なる暴力の結果、服が破れた感じであり、性的な暴行は受けていないらしい事も確認している。そういう意味では安心もしていた。
ここで時間を食っていても仕方ないので、手のひらを大きく振りかぶり、パァン!!と小気味いい音と共に聖女サマの頬をはったおす。
「!? こ、これは!?」
「お、起きたか。おはよう。少しばかり寝坊したな。…あぁ、今すぐ起きようとすんな。多分力入らねぇだろ」
それでも起き上がろうとする聖女サマに肩を貸してやると、そのまま壁に寄りかかった。
全く、強情な事で。
「私は…一体…?」
「簡単に言うと、俺の手落ちでアンタが教会まで攫われた。ほとんど潰したが、一人逃した。今から残りを潰してくるから、その間にアーネの家に戻っといてくれ。多分、あそこが一番安全だ」
「!!………いえ、私も行きます」
「あぁ?」
何言ってんだ?コイツ。
「あなたは私の護衛でしょう?なら、私を護り通して残党を倒してください。恐らく、例の敵でしょう?それに、私ひとりでは立つことも出来ませんので、帰ることすら──」
がらん、と。
一際大きな音が教会に響く。
金剣だ。
「貸してやる。それの効果は──知ってるな?身体が軽くなる。俺が許している間はアンタが握ってても問題ない。それ引っ掴んでれば今の身体でも走る程度なら余裕のはずだ。どこも折れてなかったしな。それに──護衛の件だが、ありゃ既に破綻してるよ」
「な、何故ですか!?私は契約を打ち切ってはいません!!」
「馬鹿抜かせ」
時間がねぇってのに。面倒な事だ。
「護衛対象を護れない護衛をつけて何になる?アンタが攫われた時点で契約はほぼ破綻してた。俺がここに乗り込んだのは、アンタを助けるのが最低限の仕事だからだよ」
護り、まもる。
それはつまり、攫われてから行動するのではない。
攫われる前に、殺される前に敵を撃退するからの護衛だ。
もし仮に──敵が聖女サマを攫うのでは無く、即座に殺害をしていたら?
その場合でも、俺は当然相手を潰していただろうが──しかしそれは、完全に、完膚なきまでに依頼失敗だ。
失敗した俺には、護衛である資格はない。
「ここから先は俺が片付ける。理由も手段もないアンタは先に帰って怪我ァ治してもらえ。心配しなくとも、相手の頭は持ってくるから」
俺の言葉を聞いても、それでも納得出来ないと言った風な聖女サマの手に金剣を髪で縛り付け、なお動こうとしない聖女サマに対して、最後に言い放つ。
「アンタにいられちゃ、俺の邪魔になるんだよ。アンタに一体──何が出来る?」
そう言い捨てると、ようやく聖女サマは出口へと歩き始めた。
『──いいのか?あれで』
じゃなきゃ邪魔で仕方ないからな。
何の関係もない聖女サマを引き連れ回す訳にゃいかんだろ。
──だと言うのに。
この胸のモヤモヤは一体何だ?
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