大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

昼食と開幕

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とりあえず、地面に向かって思い切り戦技アーツ叩き込んで分かったのは二つ。
一つ、この剣がこの程度では全く傷つきも歪みもしないような、尋常ではない頑丈さを持っているということ。
もう一つ、このフィールドは以前ほど高速でないにしろ、充分すぎる程の再生能力と強靭さがあると言うこと。
俺を中心にクモの巣状に広がった亀裂に目をやり一言
「意外と割れなかったな」
と呟くと、ユーリアに思い切り頭を叩かれた。
ちょうどそのタイミングで《雷光》も「今の音は何事だ」と血相を変えて飛んできたり。
色々とあったが、結論を言えば特に問題は無さそうだった。
また、剣の慣らしは不要なぐらい身体に馴染んでいたということを伝えておこう。
やっぱ槌人種ドワーフってすげぇわ。あるいは槌人種ドワーフと言うより、ベルが凄いのかもしれないが。
そんな訳で昼前に一度昼食を食べに闘技場を出る。
「あれ?ユーリアも来んの?」
「んー…いや何、《雷光》がやりにくそうだったからな。多分私達が邪魔だったんだろう」
それは俺も薄々勘づいていた。
フィールドが半分に割られているのだから狭いのは当然だろう。俺も最初そう思っていたのだが、途中で先生が見に来て「フィールド広げますね」と言って場外エリアをフィールド位置にまで引き上げたのだ。
これによって思った以上に広くなった闘技場で、充分な広さを得つつ結構自由にやっていたのだが、《雷光》は何となくそれでも遠慮していた気がする。
「ま、あのスキルだしな。本気で飛び回られたら、誰かを巻き込むって考えるだけで気が引けるのも分かる」
と言いつつ、闘技場から少し離れた食堂に入る。
途端に肉の焼けるいい匂いが広がり、空きっ腹に刺激を与える。
「随分…しっかり食べる気なんだな」
「あ?ちゃんと食わなきゃ身体がついてこないだろ。アーネもそう言ってるし…と、いたいた」
俺の方に向かって手を振っているのはそのアーネ。やっぱデカいと見つけやすいな。
「いやいや、アーネは魔法使いだから魔力を溜め込む必要があるんだろう。それでも大体は何時間も前に済ませておくものだろう?」
「ん?アイツ結構直前まで飯食うぞ。肉とか小麦系とか卵とか」
「信じられん…変換速度が異様に早いのか…?」
ただ飯食うのが好きなんじゃないかね。実際はどうか知らんが、それが強さに直結しているのだから面白い。
『余談だが、《勇者》は戦うことに特化してる。飯の吸収も一般的なヒトとくらべると早い』
だそうだ。
そんな訳で、既に試合は昨日のうちに終わっているアーネ、普通に飯食っても問題なく動ける俺は普段通りに飯を食い、ユーリアは軽く済ませていた。
その後あちこち歩いて休憩を挟みつつ闘技場に戻る。アーネも一応関係者なのでこちら側に入れるのだが、遠慮して一般客席から見るらしい。
まぁ、一般客席と言っても、聖学生徒用の枠があるのだが。
さて、ここでルールの再確認。
と言っても以前触れているので簡単にだが。
場外あり、魔導具は一つのみ、敗北条件は場外か審判判断、もしくは降参。
そして二つ名戦の場合、システムは勝ち抜き戦となる。要は最後に一人でも残っていれば残っていた陣営の勝利。
昨日のようにフィールドのド真ん中で奇妙な帽子をかぶった司会者が、昨日のことを振り返りつつ観客を煽っている。あと数分で開幕だ。
「で、どうする。一番槍は」
「私が行く。いいか?」
即答したのはユーリア。
俺は「行ってこい」と肩を竦めてそう言い、《雷光》は一言「勝て」とだけ言う。
「じゃあ行ってくる。下手をしたら出番がないからな」
そう笑いながらフィールドに登っていく。
それに合わせて司会者が切り上げ、上手いこと視線をユーリアに合わせさせて下がっていく。
さぁ、本戦の始まりだ。
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