大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

剣と制服

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「な、何事でしたの…?」
試合が終わった頃、恐る恐ると言った風にアーネがやって来た。
「おうアーネ。遅かったな。大丈夫だったか?」
「少し検査に時間がかかっただけで、私は大丈夫ですけれど…あのさっきの音は…?」
「あー、その辺はユーリアにでも聞いといてくれ。俺はちょいと急ぎの用事が出来た」
と言って、アーネを残して一度闘技場を後にする。
次の試合は三人パーティ戦。一番見応えがある試合になるから見てみたかったんだが…多分十分程度で終わるから、俺が用事を終わらせてる間に終わるんだよな。
んでまぁ、用事ってのはなにかってーと、俺が頼んでいた大剣がギリギリ間に合ったらしい。
今、ベルとラウクム君が丁度王都の関所まで来ているらしいので、早く来いと言われた。
『アンタの剣、バカ重いしデカいし目立つんや。アンタらの武器ちっさくして持ち運べるあの技術ウチらにもくれや』
と言われたものの、俺にはどうすることも出来ないので、せめてと思って急いでそちらへ回収しに行っているという訳だ。
そうしたら、何やら言い争う声が聞こえた。
「…あれ、これベルの声じゃね」
『…だな』
擬音にするならぎゃいぎゃい、だろうか。結構激しく言い争ってんな。
そちらの方へ行くと、ベルと関所の兵が言い争っているのが見えた。つかなんだあの荷車。もしかして剣はあれの中か?
「だから何度も言わせんなっちゅーとるやろ!これは聖学の生徒の武器やって!やからホントはアンタらに届出いらんのやけど、今聖学祭でそいつ来てるから渡しに来てんねやって!」
「何度も言っているのはこちらの方だろう!今は王都に危険物を持ち込む事を全面的に禁止している!例外は届出のあった武具と、今聖学祭で来ている聖学と西学の生徒のみだ!」
「だからその聖学の生徒ン為に剣作ってきてんやって!」
『………お前が原因らしいな』
「…やっちまったな」
そうか、普通なら王都に入る時は武器の持ち込みの申請みたいなのが要るのか。今まで出した事とか無かったんだが…知らんかった。
やっちまったモンは仕方ない。
とりあえず、出来るだけすっとぼけていく事にしよう。
「おーいベル、どうしたー?」
「ほら来よった!こっちじゃボケ!話通しとかんかい!」
「はは…いや悪い…」
そう言いながら頭を掻く俺の服を見て、関所の兵が声を掛ける。
「貴方…聖学の生徒ですね?聖学祭の時期は聖学や西学の生徒以外は申請を出しておかないと、武器や防具を王都に持ち込むのは禁止されています。次からは注意してください。今回は確認が取れたので特別に通します」
「知らなかったんだ。すまない。次から気をつける」
「いえ、私も明日の試合を楽しみにしているので。良い試合を期待しています。《緋眼騎士》さん」
なんだ、そう言う事か。まぁ楽しみにしてくれている分には構わない。
礼を言ってその場から離れ、ようやく王都に入る。
「…なんや《姫騎士》って。女みたいやからか?」
「俺の二つ名だ。あと姫の騎士じゃなくて緋色の目をした騎士で《緋眼騎士》だ」
そういやコイツの前でそう名乗るのは初めてだったか。自分で言うもんでもないしな。
「てっきりラウクム辺りが言ってるもんだと思ってたんだが?」
と話を向けてやると、人あたりの良さそうな笑いを浮かべながら答えた。
「レィアさんが二つ名だってことは言ったけど…その名前は言ってなかったんだ。その名前、あんまり好きじゃないでしょ?」
そう言うラウクム君の言葉に頷く。
「まぁな。そもそも二つ名ってのが小っ恥ずかしくて名乗ってらんねぇ」
「やーい、緋眼騎士緋眼騎士ーィ」
「ンな事言うと制服貸してやらんぞ」
「スマン。謝る」
「物分りが良くて助かるよ」
そう言いつつ、とりあえず俺達が泊まっている宿屋の裏手に到着。表でこんな荷車引いてるのは邪魔だしな。
さて、今回俺が彼女らに無理を通した際につけた条件は二つ。
ひとつはそれなりの金。まぁ今は手持ちがないのでツケにしたのだが。
そしてもうひとつは、この聖学祭の期間中、一時的に聖学の生徒として制服を貸すという事だ。
メリットは昨日俺達がそこそこ楽しんでいたように、様々な出店などでサービスや割引がされる事。
ただまぁ、デメリットが無い訳でもないのだが。
「とりあえず、着てる間は聖学の生徒としてしばらく振舞ってくれ。細かいのはラウクム辺りに聞いてな。あと、今回は特別外部スタッフって立ち位置らしいから、明日はもしかしたら少し呼び出しかかるかもしれない。その場合はとっとと来てくれ。いいな?」
「分かってる、分かってるって」
と言って「はよ寄越せや」と言わんばかりに手を出すベル。まぁ構わんが。
「んじゃ、金はメッセージに書いたように後日ゼランバで。ほい」
以前、学校長に確認をとったのはこの制服を二人分用意する為。学校側のメリットは、制服の代わりに一時的とはいえ槌人種ドワーフの協力を得られる事。それを引き合いに出したら、学校長は案外簡単に許可を出した。
そんなこんなで聖学の制服を渡し、代わりに荷台の包みを取る。
「おぉ」
そこには俺の持つ銀剣そっくりな銀の大剣が一振りあった。
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