大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

失敗と集合

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「糞、しくじったな…」
『まぁ、仕方ない。店主に覚えられていたのが一番のミスだが…それを言っても仕方ないからな』
オッサンがどこからとも無く大量の金貨を店主に出すと、店主はその金貨を本物かどうかじっくりと見ると、やがて溜め息を吐き、一度裏に引っ込んだかと思うと、一抱えもあるような木箱を二つ、片腕に一つずつ持って来て「好きにしろぃ」と吐き捨てながらオッサンの目の前に纏めて置いた。
それを、オッサンは「ここに──今日の夕方までに運んでくれ」と紙切れに何やら書き込んですぐに店から出て行ってしまった。
当然、そうなればシエルの武器を新調出来ないため、店主は申し訳なさそうに謝っていたが──まぁ、仕方ない。
それどころじゃないし。
先の一件で、オッサンに完全に俺達は認識されてしまった。
つまり、尾行は失敗。
一応、このことをシエルを通じてアーネに伝えてあるが、だからと言ってどうしようもない。
アーネの現在地は街の中心に比較的近い西のこことは逆、外れの東にいるらしい。
さすがにそこからこっちまで即座に来ることは無理だし、そもそもオッサンはもうどこかに行ってしまった。
ここで細い糸は完全に切れた、と言ってもいいだろう。
「糞、どうすりゃいい…」
「………おかあさん、だいじょうぶ?」
シエルが不安そうに俺を見上げてくる。
「…あぁ、大丈夫だよ」
反射的にそう答えたが、何一つ大丈夫じゃない。
聖女サマが攫われた、という事からして、今死んでいる──なんてことはないと思っている。
攫う、と言うことは言い方を変えるなら、生きていてもらわなければ困る、という事だ。
それに、もし死んでいたら結界が途切れるはずだ。
今いる聖女が死ねば、即座に次の聖女が生まれるらしいが、新しく生まれた聖女が結界を張り直すまで、僅かに結界が存在しない時間が発生するらしい。
だが、結界が途切れたような様子は一切無いし、誰も気づいた風はなく、星祭りを楽しんでいる。
つまり、まだ聖女サマは生きている。
しかし、いつ聖女サマが死ぬかは分からない。
どの道…急いで聖女サマを探し出して救出しなければならない。
なのに。
『日が…落ちてきたな』
頭上で白く、燦然と輝いていた太陽はゆっくりと傾き、赤く染まりながら隠れようとしていた。
夜は──月は、シエルが怖がる。
これ以上の捜索は難しいか。
「…シエル、アーネに連絡を。アリスの捜索を……一度引き上げる」
「………。」
無言でこちらを見上げるシエル。
私のせい?まだ大丈夫だよ?そう訴えるような目だ。
「いや、一度集まろう。情報を整理したい」
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