大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

休息と食事

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西学の生徒に宣戦布告受けるような事なんかしたっけな…とか思わなくもないが、まぁ文面だけ見りゃ特に私怨などは無い、至って普通の「やってやるぜ」的な手紙。わざわざこんな事をするなんて律儀だなぁと思いつつ、とりあえず手紙を懐へ。
まぁ、今回の聖学祭のルールだと俺とこの鰐って奴が間違いなく戦うのかどうかと言うと、また微妙な話なのだが。
試合の推移によっては十分可能性はあるのだが、ウチの奴らは強いしな…俺が先陣切ってもいいが、多分一番最初はユーリアが行きたがるだろうし。
まぁ、明後日になってからだな。後でユーリアとか《雷光》に似たような手紙があったかどうか聞いてみよう。
そんなことを思いながら、意識をこちら側に戻す。何をしているのかと言うと、今はアーネと一緒に王都巡りの真っ最中。
聖学祭に合わせて王都の出店は数を増やし、ユーリアの言うように、前来た時よりも活気が感じられる。
聖学の制服を店の人に見られるだけで「楽しみにしてるぜ」「頑張ってね」などと声をかけられ、そこそこ値引きとかサービスもしてくれる。
「次はあっちに行きますわよ!」
「おう、ちょい待ってろ」
先程出店で買った菓子の袋を丸めて近くのゴミ箱に捨ててそちらへ向かう。アーネと出かけると、大体は食べ歩きになるのだが、実を言うと俺自身はそこまで食に関心がなかったりする。
と言うのも、食べる物は味があれば大体美味いと感じるような環境で育ったため、どれを食べても結局は美味いと言うのが俺の本音だ。もちろん、二つ食べ比べてどちらが美味いかと問われれば答えられはするが。
と言っても、この時間が楽しくない訳では無い。新しい味を知る事や、場の空気というものを味わう事はこういう場以外では中々出来ないし、何よりアーネがニコニコと楽しそうにしているとこちらも楽しく感じる。
「お前…またそんなに買ってきたのか…」
「わ、私がそうしたんじゃありませんわよ!?お店の方がオマケだって言ってこんなに…」
アーネが持っているのは何やら紙袋。俺の嗅覚はその中から蒸した小麦のような匂いを拾った。
「それだけ期待してんだろうな。応えられそうか?」
「もちろんですわ。とびきりの魔法をお見せしますの」
「はは、その辺は俺よりお前の方が見栄えがいいからな。俺の分まで頑張ってくれ」
対戦相手にもよるが、俺は魔法が使えないため、ただただひたすら剣で斬ることしか出来ない。そのため、絵面がどうしてもショボくなる。
これがユーリアなら剣の随所に魔法が乗るから動きが派手だし、《雷光》は魔法が使えないが代わりにそのスキルが目を引く。まぁ、一般人には一瞬光る程度にしか見えないかもしれないが。
その点アーネは非常に目を引くからいい。詳しくは知らないが、何やら特訓もしていたようだし、俺個人も期待している。
「ただ、問題は障壁の耐久がどれだけあるかですわね…万が一私の魔力に耐えきれなかったら…」
「その辺は大丈夫だと思う。さっき闘技場を作った槌人種ドワーフに話を聞いたんだが、攻撃系の特級魔法ぐらいなら一、二発耐えるそうだ」
「ならきっと大丈夫ですわね。私も思い切り戦いますわよ」
そう言って、彼女は紙袋から手のひらサイズの饅頭のようなものを出し、ひとつかぶりついた。
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