大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

緋眼と剣姫3

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やられた。それは極々単純なフェイントだった。
《剣姫》は単に自分の前で手をこちらに向けただけ。俺がそれに見事に引っかかった。
…もしシャルがいなければ、俺はそれに気づけても反応が間に合わなかった。きっと、腹には超巨大な大剣が突き刺さり、天井まで押し上げられていたのだろう。
後で「殺す気か」と文句を言ったら「ギリギリ死なないように調整はしてあった」という旨の返答を貰ったので、多分大丈夫だったのだろうが、それでも相当な勢いで伸びる戦技アーツには冷や汗ものだった。
「ッッッ!?」
咄嗟に横に身を捩り、直撃を回避。腹部の装甲をごっそり持っていかれ、さらに俺の腹も一部やられた。
掠めただけだと言うのに、思い切り腹部を押され、その勢いで一瞬息が詰まる。そして腹そのものへのダメージも、戦闘不能ではないだけで無視はそうできるものでは無い。
飛び散る鮮血。しかし、それは俺だけではなかった。
回避と同時に咄嗟に振った俺の剣もまた、いつもより僅かに長かったために《剣姫》の首元を掠めたのだ。
急所へのダメージ。それはこの試合を終わらせる合図のひとつだが、あまりに偶然に近いそれは、この場の誰もがカウント外として見なす。
緊急回避で崩れた体勢と乱れた息。それらを整えるよりも先に、倒されていた《剣姫》が先に行動を起こした。
「!!」
空を仰ぐように手を宙に躍らせると、それに追従するかのように短剣が生み出される。その数八本。
それらが僅かな時間差も無く同時に射出。咄嗟に両手の剣で対応するが、息もつかせぬ怒涛の状況変化で体勢を整えきれず、放たれた八本の内四本程は細かく制御しているらしく、いやらしい所を攻めてくる。
「っぐ!」
ある程度の被弾は覚悟。マキナが鎧に空いた腹の穴を塞いでいるので、多少の無茶は出来る。短剣に対応しつつも呼吸を整え、体勢を立て直し、万全とは言わないまでも一定のラインまでは復帰する。
この時点で短剣の七本は叩き落とし、最後の一本を叩き折った時点でおよそ十秒程。
そしてそれだけの時間があれば、《剣姫》はその真価を発揮する。
辺り一面に浮かぶ剣。数は見たところ三十か四十か。下手をすれば五十に届くかもしれない。
そしてそのどれを取っても一級品の刀剣であり、同じものは存在しない。
「降伏は?」
「アホ抜かせ、練習でも負けてられるか」
距離は先程よりずっと近い。一歩の踏み込みで三メートルを切る。
そして俺の踏み込みと同時に《剣姫》も踏み込む。手にしているのは《剣姫》自身よりもずっと大きくて分厚い大剣。それの重さに振り回されているような大雑把な、しかし誘われているような動き。
左から来る大剣を剣で受け流し、さらに懐に入り込むが、案の定身体の影になる位置に細長い刺突剣が隠れており、それが射出。それを叩き切ると、《剣姫》が剣を振り回すの勢いのまま蹴りを繰り出し、俺がその足を右の剣で斬らんとすると、今度は俺の右手側から剣が現れ、そちらを対処しなくてはいけない状況になる。
『後ろ!後頭部の上!』
それが本命か。右側から来る剣を叩き折りつつ、左から来る蹴りをくぐって回避。これで後ろからの剣は回避出来たが、《剣姫》はその飛んできた剣を受け取り、素早く逆手に持って足元を抜けた俺に突き刺す。
しかし当たり所が悪かった。タイミングは完璧だったが、得物が突き立ったのは俺の背面。
《千変》は背中を通じて全身に髪を通す事でさらなる筋力の増強をしている。そして俺の身体の中で最も強靭なのは髪。それが鎧と合わさっているのだから、実を言うと背中が一番硬い。
カィン、と軽い音と共に剣が弾かれた。
「硬──」
しかしその程度では動揺しない。即座に剣を捨てつつ、浮いている剣を俺へ向けて射出。
「やっぱまともに戦ってると不利になるな」
時間が経てば経つほど場が作られて強くなる《剣姫》。
同様に、戦う時間が伸びれば伸びるほどこちらを吸収する《貴刃》。
そもそもが長期戦をさせない《雷光》。
俺の周りはこんなのばっかりか。
戦技アーツ
降り注ぐ大小様々な剣をステップを踏むように回避。狙いすぎると逆に道が絞られてしまうので、敢えて狙いを絞っていないのだろうが、この程度なら避けられる。
距離二メートルと少し。そして降り注ぐ大量の剣。死角もあるし届くか。
「《柳幽》」
一際大きな大剣が降ってきた瞬間を狙って移動戦技アーツを発動。《剣姫》との間に突き立てて死角を作りつつ超速で後ろに下がり、距離を取って剣の範囲外へと移動。
僅かな硬直。しかし単純な戦技アーツ故に隙も少なく、次への動作が素早く行える。
「そして戦技アーツ
選ばれた戦技アーツは魔族撃退時にも行ったコンボの双剣版。今回は繋がっていないのだが充分だろう。
「《双二閃》」
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