大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

集合と壁

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ユーリアに呼ばれて行ってみれば、そこに居たのは《臨界点》を除く二つ名持ち全員。それと英雄のオーリアンもいる。
「皆ってのはそう言う事か。しかしよく集めたな」
「今回の聖学祭は結構本腰を入れる必要があると思ってな。ダメ元で《雷光》と《剣姫》に声を掛けたんだが、意外にも乗ってくれたんだ」
「利害は一致しているからな。それに、私としてもこの聖学祭は是非全力で当たらせて貰いたい」
と《雷光》がやる気を見せる。
「なるほどな。で、ルーシェは手伝いか」
「手伝いって言うかぁ…無理矢理ぃ…連れてこられたぁ…」
そう言って隣のユーリアを横目で見る。
「でもどうせ暇だったんじゃないか?ここしばらくは学校側からの課題も何も無かったし。それなら自主錬より実際に剣を合わせた方がいいだろう?」
「それはぁ…そうだけどぉ…」
「…で?お前は?」
「おう、天下の英雄様にお前呼ばわりっちゅーんはお前さんぐらいやで。まぁ俺は気にせんねやけど」
どこぞの王族出身のアレとか、キツい感じの女とかにやったらそのままぶった斬られそうだが、この英雄はまるで気にしないようで、そう言いながら大口を空けて笑った。
「じゃあいいじゃねぇか。で、理由は?」
「いやな?俺到着するの遅かったから、実はまともに今の二つ名持ちの実力見てないねん。結構粒揃いってのは聞いてんねやけど、どんなモンなんかなーって」
「あれ?今日までずっと見てなかったのか?」
「何人かはチラリとは見たで?けど《雷光》の…シオンやっけ?彼女とか早すぎてパッと見じゃ分からんし、改めて見たいなって。流石は《至雷しでん》のトコやなって感じや」
「…《至雷》?」
どっかで聞いたような。あぁ、そういや《雷光》は《紫電》とかいう二つ名持ちから二つ名を継承したんだっけか。それとは微妙にニュアンスが違うようだが音は同じだ。なにか関係でもあるのだろうか。
そう思って《雷光》の方を見ると、深々と頭を下げていた。
「英雄様にそう言って頂けるとは恐縮です。ですが私も未だ研鑽中の身。初代の雷とは比べるのも烏滸がましい未熟な雷です」
「そんでも久しぶりにまともな雷を撃てる子やって聞いたし、凄いんには違いないやろ。頑張ってなー」
「ありがとうございます!」
と言って頭を下げる《雷光》。気のせいか軽く頬が蒸気しているような気がする。
「シラヌイ家…北にある有名な剣士の家系だ。初代のシラヌイは雷の如き凄まじい剣速と、目にも止まらぬ速さから、雷の如き者として《至雷》と呼ばれ、その名を知らしめたらしい」
状況がよく分かってなかったのが通じたのか、ユーリアがこっそり耳元に囁きかけた。
「なるほどサンキュ。あいつ凄かったのか…」
いやまぁ、確かに戦技アーツが豊富な割に綺麗で無駄がないし、太刀筋も妙に洗練されているとは思っていたが。
「では始めようか。とりあえず、まずは私とレィアから」
「いや、《貴刃》、私とやってくれないか。以前のようなヘマはやらない。リベンジだ」
「だとさ。やってこいよユーリア」
「出来れば一番体力があるうちにレィアに勝ちたかったんだが…」
「はっ、死にそうになるぐらい疲れてこい。俺はお前に負けたかねぇんでな」
こすいな、レィア』
「言ってろ」
さて、そんな訳で二人が訓練所の中央へと向かい、逆に俺達が外へと離れる。
「えーっと、障壁やなくて壁壁…ん、操作変わっとるやん。まぁええわ。壁壁~」
謎の歌を歌いながら英雄が訓練所の障壁を弄ると、どこからともなく壁がせり上がり、俺達と中の二人を隔てる物理的な壁が発生する。
「こんでええやろ。障壁なんてしてたら剣先鈍るしな」
「こんな機能あったのか…」
知らなかった。この壁を出した本人である英雄は勝手知ったる場所のようにせり上がった分厚い壁の上に座る。
「こっち来ぃ。そんで何かあっても俺が障壁で守るし、二人は思いっきりやりや」
「お気遣いありがとうございます!」
と《雷光》が中から声を張り上げる。
俺と《剣姫》がちょうど壁の上に登った頃、凄まじい火花が散った。
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